戦争の歌がきこえる

2020年8月5日 07時18分

 取材を通じて交流を得た米国在住の音楽療法士佐藤由美子さん(42)から、新著「戦争の歌がきこえる」(柏書房)をいただいた。
 音楽療法士は、音楽を通して心身の安らぎや活力を引き出す仕事。佐藤さんは米国の認定資格を持ち、ホスピスで終末期の患者にギターやハープの弾き語りを届けてきた。七十五年前の戦争を体験した米国人が、人生の最期に何を語ったかを伝えるのが本書である。
 「僕は日本兵を殺した。彼らは若かった。僕も若かった…。彼らの家族のことを考えると…本当に申し訳ない…」。末期がんを患うロンさんは、病室でのびやかな歌声を聴かせた佐藤さんが日本人と知るや、そう声を絞り出して泣き崩れた。サイパンで戦ったこと以外、家族でさえ何も知らなかったという。
 米国で第二次世界大戦は「just war(正しい戦争)」「good war(良い戦争)」と呼ばれ、広島・長崎への原爆投下さえ正義だったと意義付けされる。
 一方、泥沼化して敗退したベトナム戦争は「bad war(悪い戦争)」。トラウマ(心的外傷)を負った帰還兵の孤立が米国社会に暗い影を落とした。だが、英雄として帰った大戦の兵士とて受けた傷は同じ。敵とはいえ殺人をした罪悪感にもがき、酒に逃れて病を招いたロンさんの証言がそれを物語る。
 佐藤さんは書く。結局、「良い戦争」などなかったのだ−と。 (白鳥龍也)

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