東日本で初めての野外繁殖 渡良瀬遊水地でコウノトリ巣立つ

2020年8月5日 07時17分

朝の光に翼が色づいて巣塔に舞い降りる巣立ちした「ゆう」。右は「わたる」

 日本で野生のコウノトリが絶滅して四十九年。この夏、栃木県小山市の渡良瀬遊水地で、東日本では初めて野外繁殖で二羽が巣立った。昨年末まで本紙で「探鳥」を連載した堀内洋助カメラマンが報告する。

久しぶりに求愛のクラッタリングをする「歌」(左)と「ひかる」。陽炎の影響で像は不鮮明に

 梅雨明けした渡良瀬遊水地で二日朝、国の特別天然記念物コウノトリの幼鳥の翼が地平線から昇る太陽の光に色を染めた。朝の空中散歩を終えて巣塔に舞い降りた瞬間の光景だ。雌の「ゆう」は七月二十九日、雄の「わたる」は八月一日に巣立ちした。その後もヨシ原に設置された人工巣塔をねぐらにする。巣塔から約四百メートル離れた堤防から観察でき、連日大勢の野鳥愛好家が訪れる。
 今回の野外繁殖による巣立ちは、一九七一年に国内の野生コウノトリが絶滅し、二〇〇五年に兵庫県立コウノトリの郷公園が野生復帰事業を開始して以降、東日本初の事例になった。また、二歳の雌の産んだ卵からひなが巣立つのは日本では最年少記録という。

くちばしを絡める「わたる」(左)と「ゆう」

 幸せを運ぶ鳥とされるコウノトリは翼を広げると約二メートルで、全長は百十二センチ。中国東北部などで繁殖し、中国南部などで越冬。かつて日本でも繁殖したが、四十九年前に絶滅。その後、十五年に及ぶ同公園の野生復帰事業で、野外個体数が増加し、一日現在では二百十八羽が大空を舞う。巣立ちをもって「幼鳥」として野外個体数にカウントされる。
 渡良瀬遊水地を舞台に作家立松和平さんと本紙に連載した「渡良瀬有情」から二十九年半。その後も遊水地の自然に魅せられて撮影してきた。約二十年前、遊水地の環境を守る市民グループ「わたらせ未来基金」(現在はNPO法人)が発足し、活動に参加。その時、同会は「四十年後にコウノトリを生息させること」を目標に掲げた。夢のような話で実現不可能と思われた。

梅雨明けの夏空を飛ぶ「ひかる」を見守る大勢の観察者ら=いずれも栃木県小山市の渡良瀬遊水地で

 二〇一六年十月、千葉県野田市で放鳥された雄「ひかる」が遊水地に飛来した。十八年二月、「コウノトリ・トキの野生復帰」に取り組む小山市が人工巣塔を設置すると翌日に巣材を運びはじめ、定住するように。巣塔の奥に富士山が望める日は絶景だった。二年間は「おひとり様」だったが今年三月、徳島県鳴門市生まれの雌「歌」とペアになり、ひな二羽が誕生した。
 コウノトリのつがい関係は固いというが、残念ながら「七月二十五日以降、非常に仲が悪く、歌は巣に寄り付かない」と地元の観察者らは心配していた。
 二日午後、突然、「歌」が巣塔にいる「ひかる」に会いに来た。すぐに、互いに向き合って、くちばしを打ち鳴らす求愛のクラッタリングの音がヨシ原に響き渡った。気温が高く陽炎(かげろう)が発生して像は不鮮明だが、心に残る一枚に。
 鳴門市の電柱上の巣では、「歌」の両親が四年連続ふ化と巣立ちを実現している。「ひかる」と「歌」も毎年、渡良瀬遊水地で子育てすることを期待したい。 (堀内洋助)
<ほりうち・ようすけ> 1954年松山市生まれ。元東京新聞カメラマン。92年、写真企画「渡良瀬有情」取材班で新聞協会賞を受賞。昨年末まで本紙に「探鳥」「絶景を行く」を連載。現在は松山で主に四国の野鳥と自然を撮影している。
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の最新ニュース

記事一覧