都の休業要請直前に政府が「待った」 権限めぐり火花

2020年8月6日 06時00分

会談後、それぞれ取材に応じた小池百合子東京都知事と西村経済再生相=4月9日夜、東京都千代田区で


<検証・コロナ対策10>
 首相の安倍晋三(65)が東京などに緊急事態宣言を発令する方針を固めた4月6日の正午前。東京都知事の小池百合子(68)は都庁で報道陣に「さまざまな準備に入っている」と明かした。
 その準備の1つが、宣言と同時に店舗などに休業を要請することだった。
 6日午後4時ごろ、都は都議会の各会派に、休業要請の対象業種リストを示す。翌日の宣言発令を前に、小池は午後5時から発表すると決めていた。ところが、リストを入手した政府は経済への影響を懸念し、都に「待った」をかける。
 政府を押し切る形で小池が休業要請を発表するのは4日後の10日。「(知事は)社長かなと思っていたら、天の声がいろいろ聞こえて中間管理職になったような感じだった」。皮肉を込めて政府に不満を述べた。
 一方、経済再生担当相の西村康稔やすとし(57)は「天の声ではなく法律の声だ」と小池を批判する。コロナという国難を前に露呈したのは、権限を巡る政府と自治体の対立だった。

◆原因の一つは特措法のあいまいさ

 新型コロナウイルス対策の休業要請を巡り、政府と東京都が対立した4月6日からの4日間。その原因の1つは、対策の根拠となる特別措置法の規定が、両者の権限を曖昧にしているという点がある。
 特措法は、政府が基本的な方針を定め、都道府県知事が地域の事情に合わせて休業などの協力を要請できる、という形を取っている。このため、自治体が独自に要請しようとしても、政府が方針でその内容を縛ることができる。そんな余地を残していた。
 「国が方針を改定して、休業要請を認めないようだ」。都にそんな情報が入ったのは4月6日夕。知事の小池百合子(68)が休業要請を発表する直前だった。「都の動きを察知し、手足を縛ってきた」と、知事を支える都議会会派「都民ファーストの会」の役員は思った。

◆休業要請に慎重な国に「今やらないといけない」

 小池が会見室に現れたのは、予定から4時間以上たった午後9時半。記者への配布資料は、都議会に示した休業要請対象リストの3ページ分が抜けていた。「休業要請するのか」の質問に、小池は「国と調整中」と繰り返した。
 7日、首相官邸の向かいにある政府庁舎の一室で、都幹部は官邸のコロナ担当審議官と向かい合っていた。審議官は方針の改定案を示し、強い口調で言った。「これは法律と同じ。守らないと法律違反になる」
 差し出された紙には、休業要請は「国と協議の上」「外出自粛要請の効果を見極めて行う」という2つの条件が加わっていた。休業要請の対象としない業種の一覧まであった。経済に力を入れる政権は、首都の休業要請に慎重だった。「都の案を全力でつぶしに来た」と都幹部は受け止めた。
 「理髪店はだめ」「百貨店もだめ」。次々と注文を付ける審議官に、都幹部は食い下がる。「感染拡大を防ぐためには、今やらないといけないんです」。両者は折り合えないまま、午後7時に首相の安倍晋三(65)が7都府県への緊急事態宣言を発表する。
 同じころ、小池も都庁で会見を開く。「休業要請は10日発表、11日実施」と表明。引かない構えを見せた。
 都と政府の調整が難航する中、都内の新規感染者数は8日、9日と続けて最多を更新する。政府は休業要請の2週間先送りを求めたが、小池は「命の問題だ」と抵抗。「経済か命か」の二者択一を迫るような小池の訴えに、世論も「国が都を邪魔している」ととらえて背中を押し始める。

◆再び感染拡大の今、問われる特措法

 9日午後8時すぎ、小池と経済再生担当相の西村康稔(57)が会談する。1時間後、会談を終えた小池は上機嫌だった。「方法論について共有できた」。理髪店などが対象から外れる一方、小池の主張通り11日からの要請実施となった。
 政府と都の主導権争いに振り回された理容業界。杉並区で理髪店を営む荒川修(56)は「翻弄ほんろうされたけど、対象から外れてほっとした」と胸をなで下ろした。
 都幹部は空白の4日間を「明らかに無駄だった。法律がスカスカで、地域の事情に合わせて、という趣旨が完全に無視されてしまった」と振り返る。再び感染が拡大する今、地方の知事からは特措法の改正を求める声が上がっている。(敬称略)

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