安野モヨコの「東京」

2020年8月7日 07時10分

「安野モヨコ展ANNORMAL」の会場

 慣れ親しんだ町や店がコミックやテレビドラマなどに出てくると、その作品に親近感がわきませんか? 東京生まれ、東京育ちの漫画家・安野モヨコさんの作品には「東京」の町が登場する。デビュー30周年を記念した「安野モヨコ展 ANNORMAL(アンノーマル)」が世田谷文学館で開催されているのを機に、安野作品の中の「東京」を探した。
 私ごとから入って恐縮だが、私は世田谷区の祖師谷育ち。その町の名を、安野さんの代表作「ハッピー・マニア」で読んだとき、ちょっとうれしくなった。同作の主人公は「ふるえるほどの幸せ」を貪欲に求め、いろんな男性に接近するも、その恋が成就しない重田加代子。加代子の元カレが住んでいた場所として、せりふに入っていたのだ。
 1971年に杉並区で生まれた安野さんは、高校3年の時にデビュー。95年から連載された同作は、女性がいつも受け身でいる恋愛観をうち壊した衝撃的なストーリーで、女性読者の共感を呼んだ。
 この作品には加代子が初詣帰りに歩く明治神宮周辺や、お台場など「ザッツ東京」というべき街並みも登場する。「お台場」といえば、都心の混雑緩和のため開発された臨海の都市。90年代初期に崩壊したバブル経済の余韻を残し、眺めがいいレストランが今もある。そのロマンチックさ、きらびやかさは、主人公に幸せを求めてさまよわせる舞台にふさわしく思えた。
 昨年からは、続編「後ハッピーマニア」が、雑誌「フィール・ヤング」で連載中。そこでは、離婚を切り出してきた夫が「南烏山」の喫茶店を使うが、その地名は何と、安野さんの展覧会会場である世田谷文学館がある場所。住宅街で、東京になじみ深い作者だからこそ知る地名ではないか。ちなみに「ここがモデル?」と思える喫茶店が、ネット検索するとあった。
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 また、女優の菅野美穂さん主演でテレビドラマにもなった「働きマン」も、東京が舞台。主人公は、出版社で編集者として働く松方弘子で、都心のオフィス街や、雑誌でよく特集され、おしゃれなイメージの三宿(世田谷区)や中目黒(目黒区)などが出てくる。
 そして主人公が「仕事で疲れた時や落ち込んだ時よく来るんです」と訪れるのが、高尾山。安野さん自身も登ることがあるという。「早朝出発して頂上でお昼食べて下山。もしくは下山してから(山麓の老舗そば屋)『高橋家(や)』でおそば、が定番コース」と安野さん。作中では最寄り駅は「低尾山口駅」というパロディーになっていて笑える。

高尾山が登場する「働きマン」の場面

 少女から青年漫画まで、幅広い作風で知られる安野さんだが、10代の男女を描いた「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」でも、主人公で人気モデルの女の子ミリが、双子の兄で「心は乙女」のモモとともに、原宿などを歩くシーンが出てくる。
 そしてモモが買い物に出掛けるのが新宿。アルタ前や、「伊勢丹」デパートなどが登場する。安野さんは「新宿は雑多でエネルギッシュな街という感じ」というが、共感する人も多いのでは…? 「安野モヨコ展」では500点に及ぶ作品原画を展示中で、この新宿かいわいや「働きマン」の高尾山の場面もある。

新宿の街並みが描かれた「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」の場面。


実際の新宿アルタ前

 そうした街並みや作中のせりふ、波瀾万丈(はらんばんじょう)の安野さんの半生…。展覧会の楽しみ方は人それぞれだが、彼女の作品は「いつだって、『すべての人よ、強く生きよ!』『女であれ、男であれ、自分らしくあれ!』と、高らかに謳(うた)い上げている」と、ライターの山内宏泰さんは評す。会場で作品世界に浸り、そんなメッセージを確かに受け取れた気がした。
 「安野モヨコ展 ANNORMAL」は、世田谷区南烏山の世田谷文学館=電03(5374)9111=で9月22日まで。午前10時〜午後6時。一般800円。事前予約制(ローソンチケットで日時指定チケット購入)。
 文・岩岡千景/写真・佐藤哲也
 作品の原画はいずれも(C)Moyoco Anno/Cork
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