<新かぶき彩時記>「夕顔棚」の老夫婦 満ち足りて味わい深く

2020年8月7日 07時50分
 田舎の老夫婦が夕涼みをしつつ、余生を楽しんでいる様子を描く舞踊作品が「夕顔棚」。ネタ元は「たのしみは夕顔棚の下涼み 男はててら女(め)はふたのして」の和歌と、昔からの画題である半裸の男女の夕涼み。ててらは襦袢(じゅばん)、ふたのは腰巻きのことで、歌も絵も満ち足りた雰囲気が印象的です。
 初演は昭和二十六年で、戦後の混乱が落ち着いた頃。舞台は田舎の旧盆で、夕顔の下、仲良く酒を酌み交わす風呂上がりの老夫婦。風に乗って聞こえてくる盆踊りの囃子(はやし)に、若い頃を思い出して踊り出すという洒落(しゃれ)た内容です。
 伴奏は清元ですが、ところどころ田舎びた音色が入る工夫も。四、五十年前、女は十七、男は二十歳だった馴(な)れ初めのエピソードを踊る二人。年のせいで、なめらかに踊れないのも一興で、前半では若い頃を表現する振りつけも。田舎には稀(まれ)な優男だった様子や、女が髪を結い上げて踊りに出かける様子、夫婦になってからは、野良仕事や機織りに精を出した毎日を回想します。砧(きぬた)という道具で布を打つ作業を見せる後半では、砧打ちに似せた音も入り、二人一緒に、楽しげに盛り上がります。
 終盤は、村の若い男女が二人を盆踊りに誘いに来ます。かつての二人を見るような若者の登場は、連綿と続く人の営みを思わせる味な演出です。
 (イラストレーター・辻和子)

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