<新・笑門来福 笑福亭たま>落語界も新様式!?

2020年8月7日 08時00分

ギャラ袋。キャッシュレスになったらどうなる?

 新しい生活様式で、落語家の出演料もキャッシュレス化が進んでいる。本来、噺家(はなしか)の出演料は、当日現金払いで新札で渡すのが主流だったが、濃厚接触を避けるため、振り込みが増えている。
 そもそもなぜ現金を新札にしていたかと言うと、それが出演者への礼儀だからだ。落語家は職人気質(かたぎ)な人が多く、「気に入らない仕事は引き受けない」可能性が高い。もちろん商売なのでお金は発生するが、噺家は「お金ではなく、あくまで依頼者の気持ちに応えて気持ちで仕事に行く」という左甚五郎みたいな気質を持っている。
 だから落語家が同業者に共演を頼む場合、一番大事なことは「相手に敬意を払う(気持ちよく仕事をしてもらう)」ことである。そのため「本来、貴方(あなた)にはもっと高額なギャラをお渡ししなければならないのですが、私の精いっぱいの金額がこれなので、せめて新札に致しました」という誠意を表現しているのだ。
 絵画の場合、同時代の人が評価しなかったが、後世の人が評価して作品や作家が有名になることはあるが、落語にはそれはない。ライブ芸はその場で消えていくので、多くの落語家は、ほぼ無名のままこの世を去る。しかし特定のファンから絶賛されることも多い。ある意味、落語家はほとんど全員が「売れてないゴッホ」状態である。
 後世でも大衆から評価されることはないが、観(み)る人からすれば高評価されるべきゴッホみたいな人がたくさんいる。噺家はお互いを「世界的芸術家」同士として扱うことで平静を保っている。たとえ世間が認めていなくても…(笑)。だからこそ、噺家同士の出演料は基本は交渉せずに、あくまで「依頼者は相手に精いっぱいの値段を出すだろう」という性善説に立つので、新札かどうかが「敬意の見える化」になる。「集合時間に先輩より早く後輩は到着しておく」とか「電話は先輩が切るまで待つ」とかの礼儀も「敬意の見える化」かもしれない。
 しかし、オンライン会議だと、先輩がネット上で会議室を開いた後にしか後輩が入れなかったりするので、どんどん礼儀を見せられる状況が減っている。後輩からすれば「面倒くさくない」とも言えるが、礼儀の積み重ねで信用を得る機会が著しく減る。そうなると一回の失敗で信用を失うリスクが高くなる。このコロナ禍は落語界の礼儀と生活様式を大きく変えそうである。 

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