重森三玲(みれい) 庭を見る心得 重森三玲著 

2020年8月9日 07時00分

◆「日々の生活」をベースに

[評]高橋秀実(ノンフィクション作家)

 本書はまず何より装丁が素晴らしい。物静かな佇(たたず)まい。サイズもデザインも入念に考え抜かれたようで、思わず手にとって頬(ほお)ずりしたくなる。本は読むものだが、眺めるものでもある。感触を味わう美術品でもあることをあらためて教えられた。
 明治生まれの作庭家、重森三玲の随筆を集めたアンソロジー。家元制度などの固定化した形式を徹底的に批判し、独創性すなわち永遠の「新しさ」を追究した重森三玲。近寄りがたい偏屈者かと思っていたのだが、巧みな編集のせいだろう、さらさらと読めて彼がユーモラスな粋人だったことに気づかされる。
 彼によれば、庭づくりとはこの世にない「風景美」を創作すること。神に成り代わり、素材となる石や木と語り合って作庭する。条件さえ揃(そろ)えば桂離宮の庭を超える作品もつくれると豪語するのだが、障害となるのは依頼主らしい。依頼主の「文化性」「芸術性」「理解力」が低いと低俗な庭になる。ごもっともな話なのだが、あろうことか依頼主にそう説教して仕事が中止になったりする。
 庭の鑑賞についても、一回見ただけで「見た」と言うなと戒める。時とともに移り変わるのが庭で、打ち水などした時の「瞬間の美」を見逃すな。彼曰(いわ)く「秘された花」の境地。たとえるなら「恋人が最高に美しい姿をしている時に出会ったようなもの」で、庭を「愛さぬ限り咲かない」花なのである。
 彼が首尾一貫して力説するのは庭もお茶も生け花も形式ではなく「日々の生活」をベースにすべし、ということだ。家を大切にする、家を美しくするためにはお金をかけるのではなく、家に住む人が「高度な文化生活を身につけ」ること。家庭の円満が必須であり、入念にすべきは掃除。掃除こそが「美」の根元らしいのだが、彼の家ではもっぱら奥さまが庭掃除をされたそうで、「妻に頭の下げ通しである」とポロリ。きっと彼は愛の作庭家なのだろう。
 美しい本は姿勢をただしてくれる。私も読了後、部屋の掃除をしたくらいである。
(平凡社スタンダードブックス・1540円)
1896〜1975年。作庭家、庭園史研究者。前衛いけばなの提唱も。

◆もう1冊

 太陽の地図帖編集部編『重森三玲の庭案内』(平凡社)

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