<つなぐ 戦後75年>語り継ぐ「祈りの花瓶」 原爆で変形 3D再現 長崎出身デザイナー・毎熊那々恵さん

2020年8月8日 07時08分

「祈りの花瓶展」を開く毎熊那々恵さん=東京都港区で

 七十五年前の八月九日、原爆が一瞬にして多くの命を奪い、故郷の街を廃虚に変えた。その記憶を語り継ぐためのアートとして、長崎出身の女性デザイナーが、あの日の熱風で変形した瓶を忠実に再現した。「祈りの花瓶展」と題し、八日から川崎市中原区のギャラリーに展示。「手に取って触れて、平和について考えるきっかけをつくりたい」と語る。 (石川修巳)
 手がけたのは、デザイナーの毎熊那々恵(まいぐまななえ)さん(30)=東京都世田谷区。被爆した瓶を3Dスキャンし、長崎の陶磁器で精密に再現した作品や、原爆関連の書籍などを展示、販売する。
 モチーフにした瓶は、長崎原爆資料館(長崎市)に展示されていた。見つかったのは、爆心地から五百五十メートルの場所。高さ約九センチの小瓶は、誰が、どのように使っていたのか分からないけれども、そこには変形する前の日常があった。
 きっかけは二〇一六年、都内にあるデザイン専門学校の卒業制作だった。「長崎で生まれ育ち、上京したのは一四年。東京で過ごす初めての夏に、違和感や危機感がありました」と打ち明ける。
 子どものころから、祖母の被爆体験をずっと耳にしてきたという。けれども、八月九日に黙とうのサイレンが鳴らない、黙とうで立ち止まる人もいない。長崎では当たり前だった祈りは遠く、「自分が被爆三世であることを徐々に意識するようになりました」と毎熊さん。
 勉強し直そうと訪れた資料館で、目にとまったのが被爆した瓶だった。異様な形、ぼこぼことした手触り。手に取って、当時の衝撃を確かめる子どもたちの姿が印象的だったという。平和学習のために貸し出しも行われていた。
 「欲しい情報が手に入る時代。けれども『知りたい』と思わなければ、手に入れようとしません。だから今、知るきっかけが必要なんです」
 戦争に関する展示は、そのテーマゆえに「暗いし、怖い」といった印象のものが多い。被爆の記憶を語り継ぎながら、希望も表現したくて、被爆した瓶に花を飾る「祈りの花瓶」が生まれたという。日常で使ってほしいとの願いも込めた。
 毎熊さんは、延期された東京五輪・パラリンピックに合わせて来年夏、東京で展示会を計画している。「ゆくゆくは米国や欧州でも展示したい。日本だけの問題ではありませんから」
 八日からの花瓶展は、二十三日までの毎週土・日曜に開催。正午〜午後六時。入場無料。感染症対策のため入場制限も。詳しくは、会場のブックカフェ&ギャラリーCOYAMA(中原区上丸子山王町二の一三一四、JR南武線向河原(むかいがわら)駅から徒歩約三分)のウェブサイトへ。

熱風で変形した瓶を忠実に再現した「祈りの花瓶」


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