投票所削減や資格厳格化 投票をめぐる攻防激化<2020年米大統領選 攻防・投票率(上)>

2020年8月9日 06時00分
 11月3日の米大統領選は新型コロナウイルスの感染拡大という前例のない状況の中で、投票の在り方を巡る攻防が激化している。共和党はマイノリティー(人種的少数派)の投票率上昇が不利に働くと警戒し、民主党は郵便投票の拡大を目指す。勝敗を大きく左右する戦いの様子を追った。(ワシントン・金杉貴雄)

6月9日、米南部ジョージア州アトランタの投票所にできた有権者の長蛇の列=Atlanta Journal-Constitution提供・AP

 「この行列はどこまで続くのか…」。米南部ジョージア州アトランタのコートニー・ティンコパーさん(33)は、がくぜんとした。2年前の米中間選挙。地元の投票所に行くと信じられない光景があった。多くの黒人有権者が投票できず延々と並んでいたからだ。
 長蛇の列の原因は、投票所と投票機の削減だった。隣接の投票所と統合された上に、以前は7台あったタッチパネル式投票機がなぜか3台に減っていた。
 黒人住民が多い地域で、「以前住んでいた白人の多い地域ではこんなことはなかった。黒人有権者を狙い撃ちにしているのは明らかだ」。4時間以上かかって疲れ切りながら投票したが、帰った人も大勢いた。
 今年6月の大統領選の予備選投票でも同じことが繰り返された。「11月の大統領選ではもっとひどくなるだろう」と憤った。

◆「投票者の抑圧」

 大統領選の投票率は過去50年間、50%台かぎりぎり60%を超える程度にとどまる。自由と民主主義を世界に誇る米国だが、実態は理想とは異なる。
 「ボーター・サプレッション(投票者の抑圧)」。黒人などの少数派に投票させないよう、さまざまな方法で妨害することを指す。共和党が知事や議会を握る州で広く行われているとして、人権団体や民主党が批判している。少数派は民主党支持が多い。投票が減れば共和党に有利となる。
 妨害の一つとされるのが、黒人が多い地域での投票所削減だ。ジョージアだけでなくテキサスやフロリダなど共和党が強い州を中心に報告されている。
 投票資格の厳格化も手法の一つとされる。米国には日本のような住民基本台帳がなく、投票には事前に有権者登録をする必要がある。南部の州などは「不正投票の防止」を名目に、顔写真付きの公的身分証(ID)や多くの書類の提示を義務づけ、登録期間も限定している。低所得や高齢の黒人有権者はこうしたIDなどを持たない人も多く、取得には手間や費用がかかるため、登録の増加を妨げている背景がある。

◆戦略の核心

 かつて南部の州は、南北戦争で奴隷が解放された後も、投票税の納税義務や「識字テスト」で不合格にするなどの妨害で、黒人に1960年代半ばまで実質的に投票権を与えなかった。
 公民権運動で投票権法が65年に制定され、差別は禁止されたはずだった。だが、セントトーマス大のヨフル・ウィリアムズ教授(歴史学)は「黒人の投票への攻撃は今日でも多くの形態をとっている。黒人が投票権を行使できるかは確かではない」と指摘する。
 米社会の分断が広がる中、奴隷を解放した「リンカーンの党」だった共和党は今、トランプ大統領のもと支持基盤を白人保守層に頼る。そこに新型コロナの感染拡大が起きた。
 「投票者の抑圧は共和党の選挙戦略の核心だ。11月には総力を挙げるだろう」。リベラル派コラムニストのポール・ウォルドマン氏はワシントン・ポスト紙でそう予想した。

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