「核の傘」に政府依存、核兵器禁止条約に触れず 長崎原爆の日、首相演説「橋渡し」繰り返すだけ

2020年8月10日 05時50分
 安倍晋三首相は9日、長崎市での平和祈念式典で核廃絶への決意を示しながらも、具体的な道筋は語らなかった。日本は唯一の戦争被爆国でありながら米国の「核の傘」に依存し、核兵器の保有や使用を全面的に禁ずる核兵器禁止条約に反対の立場を取るためだ。核保有国の米ロや米中が対立を深め、核を巡る安全保障環境は悪化しているが、首相は「橋渡し」を繰り返すだけで、核を巡る緊張緩和に向けた動きは乏しい。(柚木まり)

◆広島の式典とほぼ同じ文言重ねる

 首相は9日、長崎市での式典で、非核三原則の堅持を掲げ「立場の異なる国々の橋渡しに努める」と述べたが、今年も核禁条約には触れなかった。6日に行われた広島平和記念式典でのあいさつと、被爆地の名前を除けばほぼ同じ文言。重ねて強調したのは、発効から50年を迎え日本が批准する核拡散防止条約(NPT)の重要性だ。

「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」で、あいさつする安倍首相=9日午前、長崎市の平和公園で(代表撮影)


 NPTは、核保有を米国とロシア、英国、フランス、中国の5カ国に限定し、核軍縮を義務付ける。日本政府は、国際的な核軍縮の枠組みにおいて「NPT体制の維持を重視」する立場。米国の「核の傘」に依存する韓国やドイツなども核禁条約に参加していない。
 昨年8月、冷戦期から核軍縮の象徴とされた米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約が米国の脱退で失効した。米国のトランプ大統領は、来年2月に期限が迫るロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長についても、中国を加えた3カ国の枠組みを求め、消極的だ。

◆米大統領選次第で新戦略兵器削減条約失効も

 米国は6月、ロシアとの協議に中国を招待したが、中国は参加を否定し決裂。11月の米大統領選で、民主党候補に指名確実なバイデン前副大統領は新START延長を掲げたが、選挙の結果次第では条約失効が決定的になりかねない。新型コロナウイルスの感染拡大も受け、相互の総領事館を閉鎖するなど米中間の対立も激化している。
 首相とトランプ氏は17年2月に発表した共同声明で、日本防衛のために米国が「核」を含むあらゆる種類の軍事力を使うことを明記した。1975年に、当時の三木武夫首相とフォード大統領が初めて核による防衛を約束して以来の出来事だ。首相は9日、長崎市での記者会見でも「日米同盟の抑止力を強化する」と「核の傘」を重視する姿勢を強調し、核禁条約に反対する姿勢を鮮明にした。

◆核禁条約に反対する姿勢、与党の声

 この態度には与党にも疑問の声がある。ある与党議員は「核禁条約は核抑止力を否定し、現在の安全保障環境では批准することはできない」とした上で、「日本がこれまでの経験を生かし、中身がこれから議論されるこの条約にどう貢献できるか。関わり方を検討した方が良い」と指摘した。
 国連で軍縮に取り組む中満泉事務次長は、5日に広島市で行われた討論会で「軍縮はいくつものツールを同時進行的に強化する必要がある。核禁条約だけで核廃絶となるわけではなく、なるべく早く発効するよう日本政府から働き掛けてほしい」と求めた。

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