戦争について考える 鴻上尚史さんが薦める本

2020年8月10日 07時25分
 終戦から75回目の夏がやってきました。体験者は年々減っていますが、私たちは戦争を学び続けなければなりません。そこで、作家・演出家の鴻上尚史さん(62)に、「戦争について考える」本を選んでもらいました。

◆データが教える

 <1>(中公新書・902円)

 「戦争反対」と漢字を使って主張するより、身体の実感というか、具体的なことが戦争に対する意識を明確にしてくれると思います。<1>『日本軍兵士−アジア・太平洋戦争の現実』(吉田裕著)は、戦争に関するさまざまなデータを明らかにしてくれました。
 例えば、軍隊には三千人から四千人に一人の割合でしか歯医者が配備されてなかったこと。結果として、行軍の間、一度も洗顔も歯磨きもできずに、歯をすべて失う兵隊が続出しました。
 水虫も猛威を振るいました。ある兵隊は、水たまりやぬかるみの中、塹壕(ざんごう)戦が続き、半年間、靴を脱げなかったといいます。結果として、想像を絶する悪臭を放つ水虫にかかり、戦後十年間も治りませんでした。
 また、歩兵は、自分の体重の50%以上、場合によっては自分の体重に近い荷物を背負って一日、何十キロと歩き続けました。
 正確なデータから迫る戦争の姿です。

◆基本的認識から

 <2>(中公新書・924円)

 また、冷静なアプローチも戦争には必要です。<2>『「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて』(大沼保昭著、聞き手江川紹子)が教えてくれます。
 いったい、アジア・太平洋戦争は「侵略」戦争だったのか、「解放」戦争だったのか。この基本的な問題を始め、素朴な質問から複雑な質問まで、ジャーナリストの江川紹子さんが国際法の専門家の大沼保昭教授に質問します。
 大沼教授は「自虐でも独善でもなく」、事実を語ります。
 日本人が思っていることと、アジア各国の人達が思っていることの違い。日本人がしたこととアジア各国の人達がしたことの違い。
 それは、日本は正しいとか間違っているとかいう、分かりやすい二分法ではありません。基本的認識を整理するための最適の書です。

◆日本軍の欠陥は

 <3>(文春文庫・737円)

 戦争中、日本人はどう思っていたのかを教えてくれるのは、<3>『大本営参謀の情報戦記−情報なき国家の悲劇』(堀栄三著)です。
 戦時中、大本営の情報参謀だった著者は、戦争を分析し、日本軍の組織的欠陥をあらわにしていきます。精神論だけでは戦争に勝てるわけがなく、情報を集め、分析し、対策を立てるべきだという当たり前のことをしていた人が本当に少数派だったということに驚きます。著者のアメリカ軍の作戦予想はよく当たると軍隊内部で感心されていたことに、暗澹(あんたん)たる気持ちになるのです。

◆9回帰還の実話

 <4>(講談社現代新書・968円)

 最後は、手前味噌(みそ)ながら<4>『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(鴻上尚史著)。九回、特攻に出撃し、九回帰還した佐々木友次さんの実話です。奇跡のような偶然で、僕は佐々木さんが亡くなる三カ月前にお会いし、五回インタビューをすることができました。
 ブラック組織の典型のような軍隊で、特攻から帰ってくるたびに「次は必ず死んでこい。どんな船でもいいから体当たりしろ」と言われ、それでも爆弾を落として船を沈めて戻ってきた佐々木さんの存在をどうしても日本国民に知って欲しいと思ったのです。
 最初に紹介した『日本軍兵士』には、アジア・太平洋戦争の死者三百万人のうち九割は昭和十九年以降だというデータがあります。敗色が濃厚になった時、戦争をやめていれば避けられた死なのです。日本人には、一度決めたことは破綻するまで突き進むという、「所与性」と呼ばれる「とにかく今のままを続ける」という精神性が強くあると僕は思っています。

鴻上尚史さん (c)TOWA

<こうかみ・しょうじ> 1958年、愛媛県生まれ。早稲田大法学部在学中の81年に劇団「第三舞台」を結成。2008年、「虚構の劇団」を旗揚げ。著書に『「空気」と「世間」』など。

関連キーワード

PR情報

東京ブックカフェの新着

記事一覧