国の移住セミナーが現金で参加者を動員 「サクラ」に1回5000円  

2020年8月11日 05時50分
 東京一極集中の是正に向け、厚生労働省が首都圏の若者らを対象に都内で開いている地方創生関連イベントで、一部の参加者に現金が支払われていたことが分かった。イベントは人材派遣大手のパーソルテンプスタッフ(東京)への委託事業で、集客に関与した関係者が「現金を支払う条件で参加者を募り、派遣した」と本紙に証言した。国の地方創生事業で不適切な動員が明らかになったのは初めて。(前口憲幸)

総務省の「移住・交流情報ガーデン」が入るビル(円印)。右上はJR東京駅=本社ヘリ「まなづる」から

 安倍政権が進める地方創生政策を巡っては、国の交付金を使うなどして開かれた県や市町村の移住相談会で参加者が偽装されていたことが本紙の報道で判明。国は約1700の全自治体に調査と報告を求めたが、今回は国自体が調査対象となる。
 厚労省は2015年7月、地方での若者の仕事探しを支援する「LO活プロジェクト」を始めた。同年3月に総務省がJR東京駅近くに開設した「移住・交流情報ガーデン」を主な会場にセミナーを開き、専門の講師が働きがいのある企業の探し方や就職活動の計画作りなどを講義している。
 本年度まで6年連続でパーソル社が委託を受け、事業総額は約20億円に上る。セミナーの集客はパーソル社がさらに外注し、地方創生関連企業など少なくとも都内の2社が関与していた。末端の下請け企業は、あらかじめ登録しているスタッフに募集要項を一斉メールで配信。応募者の中から条件に合う人を選び、現金支給を条件にセミナーに参加させていた。
 厚労省に情報公開請求した文書と、関与した企業の内部文書によると、セミナーは大学の内外で開かれ、参加は無料。移住・交流情報ガーデンなどの学外でのセミナーは17年度が年間56回と最も多く、取材で確認できた17年12月~18年2月には14回で計243人が参加した。全14回で現金が支給され、少なくとも170人が1回当たり5000円を受け取っていた。参加者11人のうち10人が「サクラ」だったセミナーが3回あり、複数回参加した若者もいた。
 パーソル社の広報担当者は「現金を配るよう指示した事実はない」と説明。一方、下請け企業の関係者は「国の仕事に関与していたとは思ってもいなかった。発注元から来た仕事をさばいた」と語った。セミナーの元担当者は「参加者が謝礼をもらっていることは知っていた」と明かした。
 厚労省地域雇用対策課の担当者は「現金支給の動員は考えられない。(サクラが)紛れ込んでいたら分かると思う」と話している。

◆理解に苦しむ


 東京都立大の山下祐介教授(社会学)の話 地方で働く魅力を伝えるセミナーの主役は学生で、集客こそが事業の根幹。それを委託や外注で済ませていたとは理解に苦しむ。地方移住は人生の転換であり、仕事があれば実現するという単純な話ではない。地方との連携など細やかな体制づくりが不可欠だが、厚労省にそのノウハウがあるか疑問だ。セミナーは地域を限定しておらず、具体性がない。これでは学生も何を学ぶのか分からないだろう。事業そのものが空回りしているように感じる。

 ◆移住相談会のサクラ問題 全国の自治体が東京都内で開いている移住相談会で、一部の参加者に現金が支払われていたことを本紙が2019年12月16日付朝刊で報じた。相談会の運営を受注した都内の企業が、テレビ番組のエキストラを募る求人サイト運営企業や人材派遣企業に「人集め」を発注。企業の関係者が現金支給を認め、参加者本人がサクラの実態を証言した。本紙は内部資料や情報公開請求により、石川県、三重県、千葉県、富山県黒部市、岐阜県郡上市など約50の県や市町村が主催する相談会で参加者の偽装を確認している。

関連キーワード

PR情報

社会の最新ニュース

記事一覧