<備えよ!首都水害>障害者も高齢者も「インクルーシブ防災」 誰もが地域の避難所へ

2020年8月14日 07時07分

避難所で過ごした時の様子を話す伊藤圭子さん=江戸川区で

 「インクルーシブ(包括的)防災」という言葉をご存じだろうか。災害時に障害者や高齢者を含め誰も取り残さず、あらゆる人を受け入れるという、国連防災世界会議で示された考え方だ。避難行動で配慮が必要な人を地域の避難所で、どう守り、支えるのか。
 台風19号が上陸した昨年十月十二日、江戸川区の伊藤圭子さん(57)は小学校に避難した。脳性まひの障害があり、在宅で介助を受けて暮らしている。
 「車いすの私が避難所に行くと迷惑をかけるかも。かといって避難しなければ孤立する」。勇気を出して避難所に向かった。案内された保健室のベッドはお年寄りに譲って車いすの上で仮眠した。多目的トイレがあったが狭く、ボランティアの女性がおむつ交換を手伝ってくれた。顔見知りの近所の女性に声を掛けられたことも心強かった。
 伊藤さんが利用する自立生活センター「STEPえどがわ」。約五十人が重度訪問介護などを利用する。台風上陸二日前から集団避難先を探したが、見つからなかった。利用者のほとんどは移動手段がなく避難先での介助も期待できず在宅避難。低層階の人は垂直避難し、三人だけが避難所に向かった。

利用者の避難について話す自立生活センターSTEPえどがわの市川裕美さん

 理事の市川裕美さん(51)は「個別の支援計画を早くつくりたいが、利用者の多くは避難先や支援手段などの具体的なイメージが固まっていない」と気をもむ。
 学校の避難所は、どう支援したのか。江戸川区によると、五十六校で車いすや寝たきりの人のスペース、授乳やおむつ替えなどの部屋を設け、十六校でトイレや車いすの移動などの介助をした。
 二〇一六年の熊本地震で避難所を自主開設した熊本学園大は最大時で約七百五十人を受け入れた。障害者約六十人もここに避難。車いす利用者のスペースをつくり、介助の態勢も整えた。教職員や学生らが四十五日間の長期にわたり、最後の一人まで支援。「インクルーシブ防災」に基づく避難所のモデルとして注目された。

熊本学園大学内に設置された避難所=2016年4月19日、熊本市中央区で(熊本学園大提供)

 災害時に自治体は一般の避難所で「福祉避難スペース」を設けるよう推奨されているが、必要に応じバリアフリー機能を備えた社会福祉施設などに「福祉避難所」を開設。障害者などを受け入れる。
 同大の避難所運営を統括した社会福祉学部の花田昌宣教授は「地域の人なら誰でも地域の避難所で受け入れるべきだ。障害者だから福祉避難所へとの考え方はなかった」と振り返る。「『障害者も高齢者も受け入れる』と決断すれば難しいことではない」と指摘し、地域で障害者や高齢者と、防災訓練や避難行動の支援計画をつくっておくことを勧める。
 伊藤さんは「災害時に必要な支援について普段から相談できる関係を地域でつくっておく大切さをあらためて感じる。障害があっても手伝ってもらえば地域の避難所で過ごせることも知ってほしい」と話した。

◆松尾一郎先生のミニ講座 降雨量 「危機感」の指標に

 災害への「危機感」を地域の防災機関や住民が共有できれば被害軽減に繋(つな)がると考えている。七月の球磨川水害の例で述べてみる。
 球磨川流域の自治体の防災担当者や河川管理者らは夜半からの大雨に備え、防災対応行動を調整するテレビ会議に出席していた。会議では降雨量が一八〇ミリから四〇〇ミリと指摘された。その予想降雨量に対し「危機感」を持った球磨村の防災担当者は先を見越し、早めに避難所を開設し自主避難の呼びかけを始めた。この初動の判断が救った命もあった。球磨川は一様に四〇〇ミリも降れば氾濫する河川であった。
 国が管理する荒川、多摩川の災害の可能性を判断する目安の一つとして私は荒川四〇〇ミリ、多摩川五〇〇ミリという降雨量を指標に使っている。河川管理者が公表する浸水想定区域図に記載されている計算降雨量がもとになっている。加えて雨が降り出す前に気象台から発表される予想降雨量を気にしておけばよい。
 みなさんの身近な河川で浸水想定区域図が公表されていれば、計算降雨量が記載されている。今から調べておいて「危機感」の指標として活用してほしい。(防災行動学・東大大学院客員教授)
 文・大沢令/写真・由木直子
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の最新ニュース

記事一覧