<中村雅之 和菓子の芸心>「京氷室」(京都市・柏屋光貞) 能になった夏の贅沢

2020年8月14日 07時31分

イラスト・中村鎭

 製氷機や冷凍庫が登場するまで、長い間、氷は贅沢(ぜいたく)品だった。このことは、平安文学の代表作である清少納言の「枕草子」からも解(わか)る。
 清少納言は、上品なものの一つとして「削り氷(ひ)にあまづら入れて、新しき鋺(かなまり)に入れたる」を挙げている。新しい金物の器に入れた削った氷の上に、甘い汁を掛けて食べた、というのだ。
 当時は、冬にできた天然氷を洞窟や山中の茅葺(かやぶき)の小屋に入れて保存し、夏になると取り出してきて使った。氷を保存した場所は「氷室」と呼ばれた。朝廷の氷室は、畿内一円にあったとされる。
 氷室は、奈良時代には、すでにあり、奈良には氷室の神を祀(まつ)る氷室神社がある。
 能にも氷室の神が出てくる曲がある。そのものズバリの「氷室」だ。上皇の臣下が、都への帰途、丹波国の氷室山に立ち寄ると氷室を守る老人と若者に出会う。臣下に問われ、老人は、氷室の謂(いわ)れを語った後、若者と共に消え失(う)せる。夜が更けると、天女と氷を持った氷室の神が現れて舞う。最後に、帝(みかど)に捧(ささ)げる氷を急いで都へ運ぶ様子を見せる。
 宮中では、旧暦6月1日、氷室に保存しておいた氷を食べる「氷室の節会」が行われた。氷を口に入れ、無事に暑い夏を乗り切れることを祈った。
 全国各地に、この氷室にちなんだ和菓子がある。京都にある柏屋光貞の「京氷室」も、その一つ。寒天に砂糖を入れて乾燥させた「干琥珀(かんこはく)」。池の上に張った天然の氷を思わせる。表面はしゃりっとしているが、中はプルプル。冷やして食べることをお勧めしたい。
 (横浜能楽堂芸術監督)
<柏屋光貞> 京都市東山区安井毘沙門町33の2=(電)075・561・2263。1個110円。6〜8月のみ販売。

氷室小屋(写真奥)から切り出され運ばれる雪氷=金沢市で

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