<評>歌舞伎座「八月花形歌舞伎」 猿之助に柔らかい余裕

2020年8月14日 07時35分
 五カ月の休演を経て、一日より歌舞伎座が再開。客席数の大幅な削減、入場時の検温などの一般的な措置はもちろん、大向こうは禁止、筋書(すじがき)販売の代わりにリーフレットが無料配布される。また開演中も客席扉を開放し、地方(じかた)連中と後見は黒布で口を覆うなど、可能な限りの手厚い感染予防策が講じられており、現場のスタッフと出演者の尽力が察せられる。芝居好きの方々には今こそ無理のない範囲で応援をお願いしたい。
 第一部から第三部がそれぞれ舞踊一本ずつ、第四部が「源氏店(げんじだな)」一幕のみと、各部が一時間に収まる四部制での変則公演も、公演時間を短縮し出演者数を抑えるための苦肉の策。九月公演も同じ形式になることがすでに発表されている。
 第三部の「義経千本桜 吉野山」は、市川猿之助の忠信(ただのぶ)、中村七之助の静。柝(き)と鳴物(なりもの)が入って定式幕が開き、桜の書割(かきわり)が目に入ってくると、いかにも「歌舞伎が戻ってきた」という実感がわく。猿之助の踊りぶりに柔らかい余裕があって、狐(きつね)の本性をふっとのぞかせる時の奇怪さもうまいもの。市川猿弥の藤太が弾むような愛嬌(あいきょう)で、やや硬い雰囲気の客席をほぐしてくれる。
 第二部「棒しばり」は中村勘九郎のきびきびとした明るさが快く、坂東巳之助が懸命の力演でそれを追走する趣。
 第四部の「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし) 源氏店」は塀外の場面を省略。全体にいまひとつ芝居の歯車が噛(か)み合わないが、松本幸四郎の与三郎は若旦那だった頃の甘い面影が濃く漂うはまり役。
 歌舞伎に限らず、演劇界はまさに手足を封じられた状態。映像配信の試みなども含めて暗中模索、試行錯誤が続く。二十六日(十七日は休演)まで。
(矢内賢二=歌舞伎研究家)

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