英国民から「忘れられた軍隊」 今、彼らが語る理由 <死の鉄道>(4)

2020年8月15日 06時00分

泰緬鉄道の建設に従事し、やせ細った連合軍の捕虜=豪戦争記念館提供

◆「あなたとは決して話をしないでしょう」

 第2次世界大戦中、日本軍の泰緬(たいめん)鉄道建設に従事した英ケント州の元捕虜は本紙の取材を快諾した夜、悪夢を見て泣きながら目覚め、断念した。サフォーク州の元捕虜の思いは家族からのメールで届いた。「父は、もし日本のインタビューを受けたら、仲間たちがどう思うか懸念した。心を開くのは、まだ難しい」
 ジャワ極東捕虜クラブの代表レスリー・クラーク(57)は穏やかな口調で言う。「日本を憎む元捕虜がいることも、覚えておいて。彼らはあなたとは決して話をしないでしょう」。英兵の極東捕虜は泰緬鉄道の約3万人に加え、日本本土やインドネシアに約2万人。現在、元捕虜の会員は94~104歳の44人いる。

戦後、口をつぐんだ元捕虜たちの思いを代弁する「ジャワ極東捕虜クラブ」代表のレスリー・クラーク=英ロンドン近郊で、沢田千秋撮影

 彼らの戦争体験を聞くことは長年、家族にすら容易でなかった。レスリーも同じだ。40年近く前、映画「戦場のメリークリスマス」を一緒に見た父ウィリアムが感想を求めてきた。「若かった私は『つまんない』とだけ答えた。数年後に父が他界し、その足跡を追う中で、父がこの映画のようにインドネシアで日本軍の捕虜だったと知った」

日本軍の捕虜となって生還後、何があったか一切話さず、1989年に亡くなったレスリー・クラークの父ウィリアム=家族提供

 なぜ、彼らは語らなかったのか。レスリーは「政府から話さないよう通達があった。愛する者を失った遺族が、あの悲惨な状況を知る必要はないという配慮からだ」と明かす。

◆対独勝利に湧く祖国 ジャングルでは…

 英国を含む連合国は1945年5月、ドイツに勝利。空襲におびえていた市民や、欧州戦線から戻った兵士が街に繰り出し、狂喜乱舞した。
 同じころ、泰緬鉄道の捕虜だったレン・ギブソン(100歳)はジャングルで目と耳をヒルに覆われた仲間を助け出した。ジャック・ジェニングス(101歳)は連合軍機の飛来にいら立つ日本兵が仲間を殴り、おりに閉じ込め、拷問を楽しむ様子を見ていた。
 バート・ウォーン(100歳)は、最もつらかったことは「帰国したロンドンの駅で、ぴかぴかの制服を着た空挺部隊と遭遇し、痩せ細った自分たちの惨めさを知った時」と答えた。

◆「忘れられた私たちに気づいて」 重い口を開く

 彼らはいつしか「忘れられた軍隊」と言われた。5月の欧州戦勝記念日に比べ、8月の日本戦勝記念日は軽視されてきた。

父ウィリアムの写真を手にするレスリー・クラーク

 レスリーは悔やむ。「学校でも欧州戦線しか習わなかった。元捕虜が黙っていたからだけではない。この国の人にとってあまりに遠い出来事で、皆関心を抱いてこなかったからだ」
 戦後50年の節目や妻の死、退職などをきっかけに、彼らは口を開き始めた。その証言の数々が英国民の意識を変えている。戦後70年の2015年8月15日、エリザベス女王や首相が元捕虜たちと共に追悼行事に参列した。ロンドン中心部をパレードしながら、元捕虜たちは「人々がようやく、自分たちを知ってくれた」と泣いたという。
 レスリーが取材に応えた100歳の元捕虜たちの思いを代弁した。「もう自分以外に話せる人はいないと覚悟し、彼らは語っている。ジャングルで死んだ仲間を覚えていてほしい、忘れられてきた自分たちに気付いてほしいという一心。8月15日は特別な日だけど、彼らは毎日、仲間を思っている」(敬称略、ロンドン近郊で、沢田千秋)=おわり

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