<ふくしまの10年・コットン畑は紡ぐ>(5)人の心にも支柱が必要

2020年8月15日 07時47分

支柱を立てる今井幸夫さん=いわき市で

 コットン(綿)がひざの高さぐらいまで育ったら、風で倒されないよう、支柱を立てて支える。いわき市南部の小名浜神白(かじろ)地区で月一回開かれている「みんなの畑」の七月の活動日はその作業から始まった。
 近くには双葉郡の四町(富岡、双葉、大熊、浪江)の原発避難者たちが住む復興公営住宅「下神白団地」がある。畑に来るのは主に団地の人たちだ。
 原発事故で生じた耕作放棄地などでコットンを有機栽培するプロジェクトを手掛ける吉田恵美子さん(63)が、富岡町社会福祉協議会の職員から相談を受けたのがきっかけだった。避難してきた人たちは「いわきの人とどうやって仲良くなったらいいか分からない」と悩んでいたという。
 二〇一五年に始まり、一六年からは野菜の栽培も始めた。今はトウモロコシや枝豆などが育っていて「八月に収穫祭をやろう」という話が畑で決まった。
 参加者の一人、富岡町出身の今井幸夫さん(71)の妻は避難先を転々とする中で体調を崩した。「半年ぐらい体育館に段ボールを敷いて生活していた。プライバシーもなくうつ病みたいになって入院した」。認知症の症状も出た。
 大玉村の仮設住宅を経て、下神白団地に入居した。その後、介護施設に入所した妻の世話をするため、施設の近くに一軒家を建てた。しかし「引っ越す前に亡くなっちゃった」。事故から五年近くたった一六年一月のことだった。
 今井さんの富岡町の家は帰還困難区域にあり、取り壊しの最中だという。解除は二〇二三年の予定でそれまでは帰りたくても帰れない。当時の近所の人がどこにいるかも分からない。「月一回でも皆で畑をやるのはいいこと。皆の話も聞けるし」。人の心も、支柱を必要としている。
◇ご意見はfukushima10@tokyo-np.co.jpへ

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