<ふくしまの10年・コットン畑は紡ぐ>(6)市民参加の新たな形

2020年8月18日 07時43分

「天空の里山」を営む福島裕さん=いわき市で

 いわき市四倉町の山道を登っていくと、絵本のような田園風景がぽっかりと広がっていた。上柳生の中山集落では福島裕さん(71)が中心となり、「天空の里山」と名付けられた一万坪(三・三ヘクタール)で、コットン(綿)や野菜が有機栽培されている。
 東京生まれで神保町の出版社に勤めていた。義母の世話をすることになり、約三十年前に、妻の実家がある中山集落に移り住んだ。八世帯十九人が暮らし、そのうち十六人が六十歳以上だという。
 「欲を出さなければ幸せに暮らしていけるというぐらいの収入が得られるのであれば、皆、農業をやりますよ。そうではないということ。どの家も子どもに後は継がせなかった」
 福島さん自身も移住後すぐに農業を始めたわけではない。コンビニエンスストアに地元企業の商品を配達する運送業を始め、ゴルフざんまいの日々だった。
 六十歳で仕事を辞め、畑に立つと周囲の田畑や山が放置され、荒れていることが初めて見えてきた。
 「地域をきれいな形で次世代に残したい」。漠然と思いながらも、道筋は見当もつかないまま自分の田畑を耕し、直販所にも出荷していた。二年後、東日本大震災と原発事故が起きた。
 「ここはイチエフ(東京電力福島第一原発)から三十四キロ。どんな影響があるか分からなかった。とにかく出荷できない。今だから落ち着いて話せるけど、生活が右往左往した」
 原発は即刻やめるべきだが、恩恵を享受してきたのも自分。農業者として社会を変えるために何ができるのか−。苦悩していた時に、オーガニックコットン栽培を地域に広げようとしていた吉田恵美子さん(63)に出会った。ボランティアなど市民参加型の新たな形に希望を感じた。
◇ご意見はfukushima10@tokyo-np.co.jpへ

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