<昭島新聞>太古クジラが泳いだ街 アキシマエンシスは市民の誇り

2020年8月19日 07時07分

「アキシマエンシス」で展示されている等身大骨格のレプリカ(昭島市提供)

 東京には62もの区市町村がある。それぞれの街には何があり、どんな人たちが住んでいるのか。担当記者が「編集長」になって、一つの街を掘り下げる。
 「くじらロード商店会」、クジラが描かれたマンホール、恒例のくじら祭…。四方を陸地に囲まれた昭島市を歩くと、これでもかというほど「クジラ」の文字や姿に出合う。その正体は六十年ほど前に市内で化石が見つかった「アキシマクジラ」だ。太古の昔、海の底にあった昭島の地を悠々と泳ぎ回っていた巨大なクジラ。市民のクジラ愛からは、海よりも深い故郷への愛着が浮かび上がってくる。

東中神駅前で出迎えてくれる「あきちゃん」「たまちゃん」の像

 JR東中神駅を降りると、二頭のクジラ「あきちゃん」「たまちゃん」の像が目に飛び込んでくる。通りの向こう側に目を向けると、商店街の看板に「くじらロード」の文字が。市内を歩くと、どこかで必ず「クジラ」を目にする。
 およそ二百万年前に生息していたとみられるアキシマクジラの化石は一九六一(昭和三十六)年八月、JR八高線多摩川鉄橋の下流で、ほぼ完全な形で発見された。全長は一六メートル、ヒゲクジラの仲間でコククジラに近い種類だが、現在のクジラと異なることから、「アキシマクジラ」と命名された。
 「新聞で取り上げられるよりも早く、発掘現場に駆けつける市民が多かったそうです」。市社会教育課の黒河まいさん(26)が当時の盛り上がりを話してくれた。七三年からは毎年八月、「昭島市民くじら祭」も開かれている。今では昭島の一大イベントとなり、くじらをかたどった巨大な山車が市中を練り歩く。化石発見から六十年。今も、市民のクジラ愛は続く。

東中神駅前のくじらロード商店会

 住民は、なぜこうもクジラに熱狂するのか−。黒河さんは「昭島市は、多摩地域の二大都市である立川市と八王子市に挟まれて、影が薄くなりがち。大きな姿に故郷への誇りを重ねているのかもしれません」と指摘する。市民は、大海の中で悠々と泳ぐクジラに、故郷の理想の姿を見ているのだという。
 今、昭島市民のクジラ愛が再燃している。二年前、「エスクリクティウス・アキシマエンシス」との正式な学名が付けられ、「昭島」の名が再び脚光を浴びた。その喜びの表れが、今年オープンした市教育福祉総合センターの名称「アキシマエンシス」。施設に足を踏み入れるとすぐ、頭上で等身大の骨格レプリカが出迎えてくれる。
 「クジラは、時代や町を超えた昭島のシンボルなんです」と黒河さん。市民のクジラ愛、故郷への愛着は脈々と息づいている。

◆都内一うまい!深層地下水

 「都内で一番うまい水」というのが昭島市の自慢だ。都内の区市町村で唯一、地中深くの「深層地下水」を飲料水として使用していて、ミネラルも豊富。この水を利用して喫茶店を経営している矢崎まゆみさん(64)=写真=は「水道水をそのままコーヒーに使えるのは幸せ」と話す。
 昭島出身の矢崎さんは、隣の八王子市に住んだ時に「水の味がこんなに違うんだ、と気付きました」という。コーヒーに使うのも、お通しに使う水も、蛇口をひねって出る水道水。東中神駅前で10年前に始めた喫茶店「カフェ・ポンテ」には根強いファンも多い。
 武蔵野台地に降った水は、約30年かけてゆっくりと地下100〜200メートルの深さまで染み込んでいく。この途中で、小石や砂利がフィルターとなって不純物を取り除き、ミネラル分や炭酸が添加される。これが、「都内一おいしい」とされる水となる。市はペットボトルに詰め、ふるさと納税の返礼品としても活用している。
 「どう、おいしいでしょ?」。自慢のコーヒーはもちろん、故郷の水でのどを潤すお客さんの反応を見るのも、矢崎さんの楽しみの一つだ。

東京の名水に選ばれている諏訪神社のわき水

◆昭島市

 多摩川沿岸の低地は沖積層、その北側の台地は洪積層の武蔵野台地で関東ローム層におおわれている。戦国時代、滝山城が築かれると、拝島は城下町のような賑わいを見せる。1954年、昭和町と拝島村が合併し、東京都で7番目の市として昭島市が誕生。
 ★市内には、大小合わせて五つの水槽施設と風洞施設を有する三井造船の研究所がある。海がなくともクジラを売りにする昭島らしい施設。
 ★昭島駅北口にある「昭和の森いちょう並木」は、遊歩道としては国内最長414メートル。秋には72本のイチョウが黄色く染まる。

◆編集後記

 夏を意識して、クジラや「深層水」といった「水」を軸に取材した。他にも取り上げたい魅力は山ほどあったのだが、いまいち発信不足の感も。市民によると、他の自治体に住む人から「『昭島』は伊豆諸島の島かと思った」と驚かれることもあるという。しかし、そんな言葉はどこ吹く風。マイペースながら地元に誇りを持つ市民の姿は、でっかい東京を悠々と泳ぐクジラのようにも見えた。
 文と写真・布施谷航
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昨年のくじら祭で市内を練り歩いた大クジラ(昭島市提供)


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