<ふくしまの10年・コットン畑は紡ぐ>(7)畑を手ほどき 男性の死

2020年8月19日 07時18分

3ヘクタール余の畑が広がる「天空の里山」=いわき市で

 いわき市四倉町の農園「天空の里山」の広々とした畑には悲しい出来事も刻まれている。
 天空の里山を営む福島裕さん(71)は二〇〇九年に義母の畑を受け継いだ。手ほどきをしてくれたのは同じ集落に住む七十代の専業農家の男性だった。
 男性は米や野菜、果物を手広く作っていたが、一一年三月の東京電力福島第一原発事故で状況は一変した。「いわき市産は市場で競りにもかからない。この方は、どんどん精神的に追い込まれてしまったの」
 秋ごろには軽自動車で畑に来ても、外に出てこなくなった。作業着の上からパーカを着て、フードをかぶって外をうかがっていた。「自分を苦しめる放射能への恐怖だったのか…」
 翌一二年になると家族とも顔を会わそうとしなくなったという。事故から一年たったころ、自ら命を絶った。「この地域からそういう人が出てしまったことは自分にもすごい影響がある。天空の里山の一万坪には彼の畑も含まれている」
 一三年に、オーガニックコットン栽培を広げようとしていた吉田恵美子さん(63)と出会い、翌一四年から栽培を始めた。福島さんにとっては地域再生の第一歩だった。野菜も有機無農薬栽培にかじを切った。
 昨年はのべ二千人以上のボランティアが訪れ、コットン畑で作業をした。会費を払うと、畑で好きなものを作ることができる「畑の会」には、昨年八十人が参加し、約六割が首都圏の人だった。
 「『助けに行くんだ』は数年で終わって『一緒に新しい将来をつくっていこうよ。自分たちにとってもうれしいことだ』と思ってもらえるようになった」
 集落にはまだ休耕地がある。農業で生計を立てたい若い人たちを支援していくのが夢だ。
◇ご意見はfukushima10@tokyo-np.co.jpへ

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