区民を守り続けて半世紀、金太郎の車止め看板のナゾ

2020年8月21日 07時19分
 杉並の安全を守り続けて、およそ半世紀。それが、金太郎の車止めだ。なぜ金太郎なのか。設置した区にも資料が少なく、謎に包まれている。金太郎愛好家で区内在住のライター、立岡涼さんに並々ならぬ思いを聞きながら、歩いた。

杉並区名物の金太郎車止め。これは細い眉毛のタイプ

◆旧地下水路の入り口に独自の存在感

 まさかり担いでクマにまたがり、人さし指を天にさす。まるで「ここは遊歩道」と強調しているよう。車止めに描かれた金太郎は、路地の真ん中で独自の存在感を放っていた。
 車止めは、河川や水路にふたをして地下化した「暗渠(あんきょ)」に置かれ、自動車などの進入を防ぐ。区内には地下水路が多く、JR荻窪駅周辺は、金太郎が多い地域。三十分ほど歩くと、「九人」の金太郎と出会うことができた。

よく見ると表情や顔の輪郭が微妙に違っている

◆作られた年代で微妙に違う顔

 「気付きましたか。顔が微妙に違うんですよ」。比べてみると、まゆの形や顔の輪郭が違う。立岡さんの調べでは、五種類の顔があった。設置された年代が微妙にずれていて、作られるたびに下絵から描き直したとみられる。
 車止めは各地にあるものの、立岡さんは「他では見かけたことがなく、杉並独自ではないか」という。
 なぜ金太郎なのか。区土木計画課などに聞いても「古い記録や資料が残っていない」といい、立岡さんたち愛好家のほうが「詳しい」と説明する。立岡さんによれば、カメなど複数の絵柄から金太郎に決まった。昔話を知るきっかけや、親子の会話が弾むようにという理由のようだ。

◆「悪質ドライバー阻止に」

 設置された時期もはっきりしないが、昭和五十(一九七五)年ごろにはあったようだ。この年の区広報に「悪質ドライバー阻止に金太郎さんの車止がお目みえ」と写真付きで紹介されている。ちょうど暗渠化が進んでいた時期と重なる。

1975年3月20日発行の杉並区広報第606号(立岡さん提供)

 立岡さんがはまったのは二年前。参加した街歩きのイベントで、金太郎の写真が紹介された。詳しい情報はなかったが、探し出すと「ようやく会えた」と感激。金太郎探求にのめり込んでいった。
 「魅力は、昭和レトロのなつかしさ。宝探しのよう。いつも通っていた近所の道にもあったんです。それまで気づきもしなかった。町への愛着も深まっていきました」
 現在、五十六個の金太郎を確認した。落書きされたり、絵がはがれたりしているものも多い。壊れたものなどは順次撤去され、ステンレス製の車止めに置き換わっていくという。
 いずれはすべてなくなってしまう運命で、立岡さんら金太郎愛好家たちは、保存を訴える。「杉並独自のもの。残してほしいし、できることなら増やしてほしいとさえ思うほど。ネットで発信すると区外からも反響があり、観光資源にもなる」

◆アニメ制作、日本一の街

サンライズの最寄り駅西武新宿線上井草駅前には機動戦士ガンダムのモニュメントがある

 杉並区は、制作会社が日本一多いアニメの街でもある。一般社団法人日本動画協会によると2016年現在、アニメ制作に関わる国内の会社の2割に当たる138社が杉並に集まる。
 区によると、1964年にアニメ制作会社「東京ムービー」(現トムス・エンタテインメント)が区内に設立されたことが大きい。「巨人の星」や「ルパン三世」などの名作を次々に発表。1社ではまかないきれないほど仕事が舞い込み、分業するため、関連企業が周辺に生まれた。隣の練馬区に東映動画(現東映アニメーション)や手塚治虫の虫プロダクションがあったことも影響している。
 現在もガンダムの制作会社「サンライズ」や、映画「この世界の片隅に」を作った「MAPPA(マッパ)」などがあり、世界をリードしている。区のキャラクター「なみすけ」もアニメにちなんで選ばれた。

◆杉並区

 23区の西端に位置し、面積は約34平方キロメートルと23区で8番目に広い。人口約58万人(8月1日現在)。地名の由来は、江戸時代の初めに領主が青梅街道沿いに植えた杉並木から。現在はない。名誉区民第1号は、ノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊さん。
 ★区の木は、もちろん杉。ただ区内での栽培に向かず、シンボルの位置付け。育てやすい「アケボノスギ」も区の木になっている。
 ★夏の風物詩、高円寺阿波おどり。地元商店街が隣の阿佐谷の七夕まつりに対抗して始まった。当初の名前は「高円寺ばか踊り」。
 ★のどかな農村から発展したきっかけは、関東大震災。現在のJR中央線沿線に都心から文化人や軍人、学者などが多く移り住んだ。

 ◆編集後記
 金太郎の車止めを探してきた立岡さん。ほかに情熱を傾けているのが、飛び出しを防ぐために道路に描かれた動物のペイント。ワニやライオン、パンダなどとともに、「とまれ」と地面に書かれている。立岡さんは、他ではみたことがないそうだ。個性的な町が多い杉並。何げない道路からもオリジナリティーがあふれている。

道路に描かれたライオンのペイント

 文と写真・三輪喜人
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