<寄席演芸の人びと 渡辺寧久>名演の音 後世に残す 録音エンジニア・草柳俊一さん

2020年8月21日 07時48分

マスタリングの作業はすべて自宅で行う草柳俊一さん

 「お客さんと芸がピタッと重なり、名演が生まれる時がある。それを待つのが僕の仕事。きちんと記録して音として残したい」
 録音エンジニアの草柳俊一さん(67)は、イベント企画会社「夢空間」が主催する立川談笑、春風亭一之輔、神田伯山(当時松之丞)らの演芸会などに足を運び、舞台袖に陣を構える。目の前にはミキサーとレコーダー。「演者用、お囃子(はやし)さん用、舞台の上手と下手に客席に向けたマイクを配置して」準備は完了。四本のマイクが、名演を狙う。
 録音人生の始まりは、中学入学前から夢中になった落語のエアチェック(ラジオ番組の録音などを楽しむこと)。大学卒業後は、録音スタジオやレコード会社勤務などで耳を磨いた。
 独立後、四十四歳のときにマスタリングを手掛けた「ザ・ベリー・ベスト・オブ志ん生」CD全十二巻が、演芸専門録音エンジニアとしてのデビュー作に。二〇一一年には落語専門レーベル「キントトレコード」を仲間と立ち上げ、五街道雲助や三遊亭萬橘(まんきつ)らのCDを送り出してきた。
 その一方、人生の仕事として、アーカイブのデジタル化に取り組む。録音コレクターとの情報交換などで「昭和三十七(一九六二)年以降に放送された音源の半分ほど」を手元に収める。「僕のデータベースの最大のメリットは、放送日時などを全部追跡できるところ。音源の前後の波形などを調べたり、まるで“演芸考古学”です」
 例えば、古今亭志ん生の「火焔(かえん)太鼓」なら「全部で十二テークあり、そのうちベストは二本」と指摘。「昭和三十一年と三十六年では、だいぶ口調も変わっています」。表情にはコレクターとしての喜びが漂う。
 これまでハードディスクに格納した演芸数は約二万八千本。「未整理分は一万本ぐらい。毎日やっても、死ぬまでに終わるかなという感じですね」 (演芸評論家)

自宅裏の倉庫。立川談志所蔵のテープなどを収めている


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