<コロナ渦中の避難 熊本豪雨の現場から>(下)備え クラスター発生どう対応 マニュアルなく募る不安

2020年8月21日 07時46分

新型コロナ感染が確認された男性保健師が立ち寄っていた球磨村設置の避難所=熊本県多良木町の旧多良木高校で

 「ここにも来てた人?」
 七月十三日夜。豪雨で被災した熊本県球磨村の人が身を寄せる同県人吉市の避難所でテレビのニュースに、居合わせた人の間で緊張感が漂ったという。
 豪雨の被災地に派遣された高松市の三十代の男性保健師が、新型コロナウイルスに感染していたことを伝えるニュース。保健師は感染が判明した前日まで五日間にわたり、球磨村を含む人吉保健所管内などで、被災者の健康チェックや段ボールベッドの設置などに従事しており、この避難所にも立ち寄っていた。
 県の担当者が避難所を訪れて説明し、施設を消毒。保健師は活動中、マスクをつけており、避難者に濃厚接触者はいなかったが、県はこの施設と、保健師が立ち寄ったもう一つの避難所(同県多良木町)の避難者と運営職員の希望者にPCR検査をすることを決めた。
 他県からの医師の応援もあり、その夜のうちに避難所にいた人すべての検体採取を完了。対象者全員が検査を希望し、三日後の朝には全三百八十三人の陰性が確認された。
 避難者の一人、無職岩戸明則さん(68)は「感染者が避難所に来るのは予想の範囲内。どこでも感染の可能性はあるので気にしていないし、応援に来てくれた人を責めるようなことになってはいけない」と話す。
 熊本県によると、十九日現在、県内で確認された感染者は四百二十七人。豪雨後に設けられた避難所の被災者からは出ていない。
 避難所で発熱などの感染が疑われる事例が出た場合、運営する市町村がまず、その人を個室に隔離。県の保健所に連絡し、その後はすべて県が対応することになっている。
 県は三月中旬から独自に、感染者と接触の可能性のある人は症状の有無にかかわらず、PCR検査を受けられる体制を整備。県保健環境科学研究所ではこれまで最大で一日約三百四十件の検査を行っており、避難所で感染者が出た場合、接触者を含め数日で検査を終え、感染の広がりなどの状況を把握できるという。
 県健康危機管理課の上野一宏課長によると、現在は提出してもらった唾液で検査できるように。医師による検体の採取が必要だった保健師の感染判明時よりも迅速で、比較的大規模な避難所で同様のことが起きても対応できるという。
 ただ、集団感染が起こった場合、避難所や避難者はどうなるのか。上野課長は「避難所でクラスター(感染者集団)が発生した場合のマニュアルはない。必要だと思うが、県内で感染が拡大し、手がまわっていない」と明かす。
 県は感染者の療養施設として十六の宿泊施設を利用する協定を結んでおり、入院施設が満床だと、感染者はそこに収容する可能性が高い。ただ、避難所で大規模に感染が広がった場合、避難所を閉鎖するのかどうか、閉鎖する事態になったときの感染者以外の避難者をどこに収容するのかなどについて、明確な規定はない。避難者は自宅が流されるなどしており、自宅待機させることもできない。
 現場からも不安の声が上がる。PCR検査も受けた村職員の永椎(ながしい)陽南子さん(21)は「何かあっても、保健師に知らせることしかできない。現場で臨機応変に対応するしかない」と話す。
 同じような災害が、より人口の多い都市部で起きれば、予防対策はさらに難しくなることが想定される。
 上野課長は「クラスターにならないよう、しっかり予防し、ウイルスを持ち込まないことが大切。市町村にはそれを徹底してもらうしかない」と話した。 (高橋信)

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