歌舞伎座・九月大歌舞伎 吉右衛門 初代ゆかりの「引窓」挑む
2020年8月21日 07時48分
東京・歌舞伎座で「九月大歌舞伎」(一〜二十六日)の幕が上がる。例年九月は、初代中村吉右衛門(一八八六〜一九五四年)ゆかりの「秀山祭九月大歌舞伎」が上演されてきたが、新型コロナウイルスの影響で事情が一変した。八月に引き続き四部制で行われるが、当代(二代目)吉右衛門(76)は初代ゆかりの演目で「舞台で花を咲かせたい」と、久しぶりの舞台に意気込む。 (山岸利行)
吉右衛門は「三月大歌舞伎」の「新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)」に出演予定だったが、コロナ禍で全公演が中止になった。三月に同演目を無観客で収録して以来、五カ月余ぶりの舞台となる。
「家で絵を描いたり、本を読んだりしていました」と自粛期間中の生活を振り返り、「役者は舞台の上でお客さまの支援のもとに生きている商売だということを考えていました」と心の内を明かす。「花火師がいくらいてもだめ。舞台で花火を打ち上げ、それを見ていただくお客さまがいてこそ舞台は輝く。『吉右衛門です』と言って絵を描いていてもだめなんです。舞台に上がらないと生きていることにならない」とも話し、「九月は挑戦。初舞台のような気持ちで臨みたい」と気持ちを新たにする。
初代を顕彰してきた「秀山祭」ができなくなったことには「今まで誰も経験したことがないこと。戦争中でも慰問や巡業(の公演)があったが、今は劇場があっても公演できない」と、コロナ禍による異常事態にやりきれない様子。通常の舞台に戻るのは「時間が解決してくれるでしょう」と話す。
吉右衛門は、第三部「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓(ひきまど)」で濡髪(ぬれがみ)長五郎を演じる。事情があって人を殺(あや)めてしまった相撲取りの長五郎は、一目会いたさで実母のもとへやって来る。だが、母の義理の息子である南与兵衛(なんよへえ)は代官として長五郎を捕まえる立場にあって…。さまざまな人間関係が交錯しながら人情の機微を描く名作で、南与兵衛は初代の当たり役の一つとされた。
「長五郎は捕まる覚悟をしながら、本当の母に会いたいという思いがある。そうした苦しく、切ない情愛の表現を見ていただき、何かを感じていただけたら」と話す。
もう一人の中心人物、南与兵衛は、吉右衛門の実際の義理の息子である尾上菊之助が演じる。
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「九月大歌舞伎」に先立ち今月二十九日午前十一時から、吉右衛門の特別公演「須磨浦(すまのうら)」が有料配信される。戦争や天災、コロナ禍など、無念にも亡くなっていく命を思い、吉右衛門が「松貫四」の名前で書き下ろした作品。
吉右衛門が「大好き」だという「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」の物語がベースにあり、「災難や災害を乗り越えて人類の幸せがある。その陰で亡くなった方も多くいらっしゃる。その方々を忘れないことがわれわれの役目だと思う」と作品への思いを語る。
イープラスの「Streaming+(ストリーミングプラス)」で配信予定、三千五百円。
◆九月大歌舞伎
◇第一部(午前十一時開演)「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん) 工藤館の場」中村梅玉、中村錦之助、尾上松緑、中村歌六、中村魁春ら
◇第二部(午後一時四十分開演)「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ) かさね」松本幸四郎、市川猿之助ら
◇第三部(午後四時十五分開演)「双蝶々曲輪日記 引窓」中村吉右衛門、尾上菊之助、中村東蔵、中村雀右衛門ら
◇第四部(午後七時十五分開演)「口上」「鷺娘(さぎむすめ)」坂東玉三郎
公演は一〜二十六日(七、十七日は休演)。チケットホン松竹=(電)0570・000・489。
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