ほんとうのリーダーのみつけかた 梨木香歩著

2020年8月23日 07時00分

◆コロナ禍に改めて問う

[評]若松英輔(批評家、随筆家)

 本書の刊行を知ったとき、一瞬、目を疑った。この時期に、この著者によって、この問題が語られるとは思ってもみなかったからだ。予想に反したのではない。心のどこかで『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の著者によって真のリーダー論が語られることを心待ちにしていた。その期待が実現されたことに驚いたのだった。
 今、この国は、真のリーダーシップがないまま迷走している、と著者は感じている。「愛や敬意は、決して強制や誘導から生まれて」はならないのに、さまざまな場所でその禁が破られているともいう。さらに、同調圧力が蔓延(まんえん)し、この世界を深みから支えている言葉のはたらきが失われようとしていると警鐘を鳴らす。
 この本は、先にあげた著者の作品が文庫化されるに当たり、二〇一五年に書店で行われた講演が中心になっている。内容が古いのではないかという指摘は当たらない。この時間差は今日(こんにち)やっと顕在化した不正と不誠実を、著者がずっと前から深く鋭敏に認識していた証しにほかならない。だからこそコロナ禍とリーダー不在という多層的な危機の中、この本が世に送られることになったのである。
 人間は「群れ」に生きることを本能とすると著者はいう。しかし、それは個の喪失を意味しない。著者が考える「群れ」はむしろ、個であることを守るものだといってもよい。
 その先頭に立つのはリーダーである。その人物が「言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおり」の発言を繰り返す。すると言葉は空疎になり、世界は思わぬ仕方で瓦解(がかい)していく、と著者は指摘する。こうした地点から再起するのに必要なのは、よい組織をつくることでも、より高い協調性を見出(みいだ)すことでもない。まず、試みるべきは、自身の「魂の存続の危機」を告げ知らせる内なるリーダーの発見だというのである。それは同時に、偽りのリーダーに否を突きつける存在でもあるのだろう。
(岩波書店・1320円)
1959年生まれ。作家。著書『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』など多数。

◆もう1冊

梨木香歩著『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(岩波現代文庫)

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