ペンギンの“フン射”回避に1.34m離れて 高知大助教ら研究にイグ・ノーベル賞創始者注目

2020年8月22日 13時50分
 ペンギンの”フン射”を逃れるには最低1.34メートルのソーシャルディスタンスが必要―。そんな内容の高知大研究者の論文が、ユニークな科学研究などに贈られるイグ・ノーベル賞の創始者の目に留まり話題を集めているとの情報が寄せられた。研究者に接触して話を聞いたところ、研究のとっかかりは桂浜水族館(高知市)の飼育員との何げない会話だった。

桂浜水族館から動画を配信する高知大研究者の田島裕之さん(左)とペンギン飼育員の藤沢史弥さん(田島さん提供)


 研究者は高知大理工学部特任助教の田島裕之さん(30)。静岡県生まれで、慶応大を卒業後、理化学研究所を経て昨秋、高知大に赴任した。
 「物理や化学を身近に感じてほしい」として、来県後すぐにユーチューブチャンネルを開設。「ドクター・タージー」を名乗り、桂浜水族館とコラボして飼育員とリクガメが走る速さを競う企画などを配信していた。
 そんなある日、フンボルトペンギンの飼育を担当する藤沢史弥さんから「ペンギンのフンがめっちゃ飛ぶ。フン害を免れるにはどうしたらいい?」と質問を受けた。ぺンギンは子育て中、巣にこもるため排便の際は巣を汚さないように遠くへ飛ばす。それが飼育員をひどく悩ませていたという。

田島さんの論文で示された図解。ペンギンの“フン射”が放物線を描く


 ペンギンがフンを飛ばす際の直腸圧力については、海外の研究者が論文を発表し、2005年のイグ・ノーベル賞を受賞。巣から広がるフンの痕跡の長さ、巣の地上高、フンの粘着性から、「排出時の直腸圧力は10~60キロパスカル」と算出した。タイヤの空気圧の半分に匹敵し、人間の排便時よりかなり高い数値だという。
 ただ、田島さんは「この研究ではフンが飛ぶ軌跡までは考慮されていない」と判断し、物理学の定理や方程式を組み合わせて再計算。ペンギンがおなかを壊してフンが「完全流体」であることを前提とし、フンが飛び出す際の角度などを検証した結果、最大飛距離は1.34メートルに達する可能性があることが分かった。
 この研究を論文にまとめ、7月にネットで公開したところ、イグ・ノーベル賞創始者のマーク・エイブラハムズさんは「ペンギンの“フン射”について新しい知見が寄せられた」として、運営するサイトに田島さんの論文を紹介した。
 英国の新聞も相次いで記事を掲載。デーリー・メール紙は新型コロナウイルス対策に引っ掛け、「最近はソーシャルディスタンスを保つように言われるが、ペンギンとの距離は1メートルでは十分ではないことが日本の専門家による研究で分かった」と取り上げた。
 田島さんは、論文の共著者として藤沢さんの名も記した。研究のヒントやペンギンの平均体重、体長などのデータを寄せてもらったからだ。田島さんは「桂浜水族館の名が世界で知られるようになればうれしい。高知でしかできなかった研究。身近なことを物理的に理解するのは寺田寅彦博士に通じる」と笑顔で語る。(高知新聞)

◆新江ノ島水族館では3メートルの記録も

 新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)では20年ほど前、子育て中のフンボルトペンギンが3メートルほどフンを飛ばした「記録」があるという。ペンギンの飼育を担当する石川卓さんの記憶にあるのは2001年ごろ。「巣箱から隣の部屋に行く廊下の端から端までフンを飛ばしたのでよく覚えている。正確に測ってはいないが、ざっと3メートルだった」と振り返る。
 石川さんによると、子育て中や羽の生え換わりの時期は餌を食べる量が増える。排せつ量も増えるので、遠くに飛ばすこともあるという。「床にはいつくばりながら、ペンギンのおしりに近い高さで掃除をするので、気を付けていても、年に3回くらいはかけられることがある。最近は、今日は『運』がついたと、開き直るようにしています」と笑いながら話した。(西田義洋)
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