「岐路に立つ高校生に勝負の場を」 石川遼がPCR検査代まで負担して大会を開く情熱

2020年8月22日 10時55分
 新型コロナウイルスの影響で大会の中止が相次いだ高校生のため、プロゴルファー・石川遼選手(28)が24、25の両日に横浜市の横浜カントリークラブ西コースで大会を開く。全国から出場する96選手のPCR検査代や運営費など総額1000万円近くに上る費用は自己負担だ。そこまでして大会を開くのは「人生の岐路に立つ高校生たちに思う存分真剣勝負してもらいたい」との思いがある。(竹村和佳子)

◆コロナで主要大会中止、「うまくなっている子」にチャンスを

高校生のために大会を開く石川遼選手=2019年12月撮影

 「高校生、特に3年生は分岐点なのに、大会が軒並み中止になって、彼らには高校3年時の成績がない」。石川選手は大会を企画した意図をこう語った。
 新型コロナウイルスの影響で高校生の多くのスポーツ大会が中止となる中、アマチュアゴルフでも日本ジュニアや「緑の甲子園」と呼ばれる全国高校ゴルフが中止になった。
 部活動として完全燃焼したい子、強豪大学のゴルフ部を目指す子、ゴルフ場に就職して研修生としてプロを目指す子…。「去年から今年にかけてうまくなっている子もたくさんいる。去年の成績だけで大学などから(スポーツ推薦の選手を)判断されたりするのは避けてあげたかった。『コロナで仕方ないよね』という部分をいかに削れるか、と思った」

◆岐路だった高校時代

 石川選手自身にとっても、高校時代は大きな岐路だった。杉並学院高1年の5月に、初めて参加したプロツアーで優勝し、8月には日本ジュニアで優勝。翌年にプロ宣言し飛躍を遂げた。高校3年時には賞金王にも輝いたが、大学進学を真剣に考えた時期もあった。「あの頃、いろんな方に支えてもらったことで今の自分がある」。高校時代の経験や人との出会い、さまざまな決断の積み重ねが、今につながっていると考えている。

杉並学院高1年の時に日本ジュニアゴルフ選手権で優勝した石川選手=2007年8月、埼玉県・霞ヶ関カンツリー倶楽部で

 だからこそ、大舞台での経験が貴重な高校生のため「日本ジュニアなどに匹敵する大会を」と企画。日本ゴルフ協会や日本高校ゴルフ連盟の協力も取り付け、大会「ザ・ワン」を開く。全国からトップジュニアの男女それぞれ48選手が出場、2日間計36ホールで優勝を争う。

◆「僕がやらなきゃ」と使命感

 大会開催に当たって最も気を使うのは、新型コロナウイルスの感染対策だ。プロツアーを含むゴルフ関連5団体が制定したガイドラインに基づき、検温や問診票の提出、各選手はクラブハウスに入れず、駐車場から直接コース入りするなどの対策を取る。スタート間隔を開けて密を避け、ギャラリーは家族のみだ。
 さらに出場選手のPCR検査も義務づけ、陰性の場合にのみ出場できる。石川選手は「できるならやった方がいいと思った」とする一方、「検査代の負担のために出場をやめる子が出るのは僕の本意ではない」と検査代は自身で負担することにした。
 PCR検査代は検査機関によって異なるが、1件2万5000~5万円超。総額で400万円近くになる見込みだ。このために運営費用が倍近く跳ね上がったが、安全を確保することがより大事だと考えた。
 「スピード感が大事だと思って。『誰かやってください』と頼むのでは時間がかかる。なら全部自分でやろうと思った。野球も甲子園は中止になったけど、交流試合や独自大会で皆が真剣に闘っている姿を見て刺激を受けた。『これは僕がやらなきゃ』という使命を感じた」という。

◆いい意味での投資

 ゴルフ界全体の活性を望んでいるのは、今に始まったことではない。
「ジュニアの子が『俺たちもプロですぐやれる』って思えるような、戦いの場を作ってあげたい」と、自らの名を冠したジュニア大会は12年前から続けており、プロの大会出場権を得られるような大会もつくった。
 17年からはゴルフを始めたばかりの小学生から社会人までを対象とした大会も主催している。「ピラミッドの頂点と底辺を意識している」という言葉で、自らの取り組みを表現。プロを目指すトップジュニアの支援と、ゴルフ人口の裾野を広げることがライフワークだ。今回の「ザ・ワン」もそのプロジェクトの流れの一つだ。
 「僕の大好きなゴルフをたくさんの人にやってほしいし、若い世代が活性化したらプロの世界の競争も激しくなる。今のジュニアは将来のゴルフ界を引っ張っていく子たち。いい意味での投資です」と熱っぽく語った。

◆野球、ラグビー…、他競技でも高校3年生にサポート

 全国大会を失った高校3年生を救おうという動きは、さまざまな競技で起こっている。野球では都道府県ごとの独自大会や甲子園交流試合を開催。さらに、プロへのアピールの場として日本野球機構(NPB)と日本高野連が初めてタッグを組んで、8月と9月に甲子園と東京ドームで、プロ志望届を出した高校生を対象にした合同練習会を行う。
 ラグビーでは元日本代表・野沢武史さんが発起人となり、ネット上で「#ラグビーを止めるな2020」プロジェクトが進行。選手のプレー動画を会員制交流サイト(SNS)にアップすることで、大学やトップリーグのリクルーターの目に留まるようにした。
 フェンシングは五輪の元代表選手らが発起人となり、クラウドファンディングで資金を集め、9月末に大会を行う。一度は中止された全国高校陸上は10月に無観客で開催する。
 日本水泳連盟はスポーツ推薦に必要な全国大会の記録を担保するため、各都道府県大会の記録を全国ランキングとして集計する措置を取る。

 石川遼(いしかわ・りょう) 1991年9月17日、埼玉・松伏町生まれの28歳。175センチ、71キロ。6歳でゴルフを始め、杉並学院高1年の2007年5月、マンシングウェアオープンKSB杯で史上最年少(15歳8カ月)でツアー優勝。翌年プロ転向し、史上最速で賞金1億円突破。プロ2年目の09年に4勝を挙げ、史上最年少で賞金王に輝いた。13年から米ツアーに本格参戦。18年からは日本ツアーを主戦場とし、選手会長に就任。昨年は3勝挙げ、史上最年少で生涯獲得賞金10億円を突破した。10年5月、優勝した中日クラウンズ最終日にマークしたスコア「58」は、世界最少ストロークとしてギネスブックに認定されている。


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