藤井二冠を追う子どもたち 快進撃が東海の棋界にもたらす活気

2020年8月23日 06時00分
<頂の先へ 高校生二冠 藤井の時代>(中)

子どもたちが腕を磨く東海研修会の例会。地元のプロ棋士や奨励会員が実戦を通じて指導する=名古屋市中区で

 将棋盤がずらりと並ぶ会議室に、駒音が一斉に響いた。8月9日、名古屋市で開かれた日本将棋連盟東海研修会の例会。数十人の少年少女が、勝負している。中に、とりわけ真剣に盤を見つめる子らがいた。10日後に迫った、プロ棋士養成機関「奨励会」の入会試験に挑む面々だ。今年は5人以上の会員が受験する。
 藤井聡太と同じ愛知県瀬戸市で暮らす古野知典(12)には、初めての奨励会挑戦。「緊張します」とはにかみつつ、「地元の先輩があんなに活躍してくれてうれしい」と藤井の快挙に目を輝かせた。
 将棋界は、東京と大阪を中心に動いている。大半の公式戦が東西の将棋会館で行われ、奨励会があるのも両都市だけだ。東海勢の奨励会員は大阪まで通っている。
 「自分が奨励会にいた頃、東海勢同士の対局なんてほとんどありませんでした」。三重県在住のプロ棋士・澤田真吾(28)は振り返る。インターネットが普及する前、情報や稽古相手に乏しい地方在住者は、圧倒的に不利だった。澤田の前にプロ入りした東海在住の棋士は、杉本昌隆(51)まで約20年もさかのぼる。

◆ダイヤの原石はどこに

 「地の利」がない中で、まちの教室からダイヤの原石を発掘し、プロへと誘う重要な役割を果たしてきたのが東海研修会だ。藤井は小学1年の終わりから小学4年までここに通い、師匠の杉本と出会った。「同世代と切磋琢磨せっさたくまし、定期的にプロから教わることができた。大会などでは難しい感想戦もしっかりでき、そこで成長した部分がかなり大きかった」とは本人の弁。
 藤井の活躍が東海研修会を活気づけ、新たな才能が育つ。今、そんな好循環が生まれている。
 関西奨励会は、藤井がプロ入りする前の2016年8月、新人が集まる5、6級で東海勢は2人だけだった。それが今年8月には7人に増加。「隔世の感がある」と澤田は語る。19年には三重県の石川優太(25)がプロ入り。愛知県の脇田菜々子(23)ら女流棋士も、近年続々と誕生した。日本将棋連盟常務理事の井上慶太(56)は「東海勢の存在感はどんどん大きくなっている」と評する。

◆名古屋に将棋会館を

 名古屋市に第三極となる将棋会館を建設することが、東海棋界の長年の悲願だ。雲をつかむような夢、と思われてきた。それでも昭和の半ば、岡山県出身の大山康晴(故人)が棋界の頂点に上り詰め、関西に将棋会館を建てた例がある。
 藤井の持ち帰った二冠の意味は大きい。8大タイトルは現在、関東に5つ、関西に1つ。そして東海には2つある。(敬称略)

東海研修会 関東研修会、関西研修会に続く第3の組織として1999年に発足した。小学生から大学生まで70人以上が参加。月2回の例会で会員同士が対局する。規定の成績を挙げれば奨励会に進んだり、女流棋士の資格を得たりできる。地域のプロとアマでつくる東海普及連合会が独立採算で運営してきたが、本年度から日本将棋連盟直轄になった。会員は地理的に近い関西奨励会を目指すことが多い。

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