カーライフにサヨナラ、サヨナラ 免許自主返納の小松政夫 事故受け決意、にじむ啓発の思い

2020年8月23日 07時31分

自主返納する運転免許証を感慨深げに見つめる小松政夫=18日、東京都世田谷区で(一部画像処理)

 コメディアンで俳優の小松政夫(78)が運転免許証を自主返納した。六十余年、無事故無違反を続けてきたが、今年六月に初めて物損事故を起こした。「まだまだ大丈夫と思っていたが、どこかずれていたのかもしれない。人生にひと区切りをつけた感じ」とけじめをつけた。名ギャグ、爆笑キャラクターを語る上で不可欠なカーライフだったが、「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」と潔く別れを告げた。 (立尾良二)
 十八日夕、小松は東京都世田谷区の成城署前にアロハシャツ姿で現れた。免許返納に際し「そりゃ六十年以上ハンドルを握り、二十台以上も乗り替えてきたので寂しいですよ。でも初めて物損事故も起こし、大変なことが起きる前に決断した」と手続きに向かった。
 六月、自宅近くの眼鏡店に一人でマイカーを運転して行った帰り、住宅街の交差点に差しかかった。一時停止線で止まったが、家屋が視界を遮って見通しが悪い…。そろりと前進したところ右側から来た車と接触、相手のバンパーなどが破損したという。帰宅後、テレビをつけるとニュースで報じられていた。「え、あれがニュースになるの?と驚きました。妹は『兄さん、まだスターなのね』と電話してきました」
 手続きを終え、穴が開いた免許証を手にすっきりした表情を見せた。色がゴールドではなくブルーなのは四年ほど前「うっかり失効」したことがあったためだが、十七歳で当時の軽自動車免許を取得して以来、無事故無違反を貫いた。
 最近まで仕事場や新宿などへ夫婦で買い物に行く時も、迎えがなければ運転していた。しかし、二年前の更新時、七十五歳以上は必須の認知機能検査を受けてがくぜんとしたという。「今日は何を食べましたかとか、絵を見て数分後に思い出させたり、私の顔も見ずに質問する。嫌ですね〜」
 昨年、東京・池袋で高齢者の車が暴走し、母子が死亡した事故に衝撃を受けた。普段から「急ぐ時には運転してはいけない」が口癖で注意を払っていて、来年の更新時での返納を考えていたという。しかし、自身の事故で前倒しを決めた。
 「私の人生は車とともに歩んできました」。車のセールスマンに始まり、「親父(おやじ)さん」と慕う大スター植木等の付き人兼運転手として芸能界入りした。「今の私があるのも車のおかげ」としみじみ語り、年齢も植木が他界した八十歳に近づき「これも区切りの時かも」と静かに決意した。
 事故後、ファンや知り合いから「また事故を起こしたら、小松さんの芸や舞台、ドラマを見られなくなる」「タクシー代の方が安いよ」と気遣いつつ返納を促す声が多数寄せられたことも背中を押した。「ありがたいこと。高齢者の事故が増えている中、どきどきしながら運転して楽しいでしょうか」と問い掛ける。
 「一つだけ言わせて」と小松は真剣な表情を見せた。「車がないと生活できない地域もある。免許を返上して生活に困るようではダメ。代替の交通手段にも配慮してほしい」と訴えた。
 別れを告げたカーライフだが、ちょっと心残りも。「妻と思い出の多い伊豆半島をドライブしたかった…」。一瞬、感傷に浸った。

◆トップセールスマン、植木等の運転手…六十余年

サラリーマン時代

 小松は俳優を目指して福岡・博多から出てきた。横浜市内の魚市場などで働いた後、自動車販売会社に就職。車人生はここから本格的に始まった。月に二十二台も売るトップセールスマンで、先輩や同僚、客らとの出会いや駆け引きは、後の名ギャグに生かされた。
 「当時、ノルマは厳しくて、昭和の熱血サラリーマンそのもの」と振り返る。味のある部長やホスト風、おっちゃん風の先輩らとの販売合戦は痛快を極めた。

植木等の付き人兼運転手だったころ=本人提供

 そして「ハナ肇とクレージーキャッツ」のスター植木等の付き人兼運転手に転身した。「ゴルフ場で親父さんを待っている間、車をぴかぴかに磨いたり、深夜遅く親父さんを自宅へ送り届けてホッとして玄関先で寝てしまったり、翌朝そのまま出迎えたりと、思い出は尽きません」。失敗談もある。「一度、私のアパートへ親父さんが車を運転して来ました。飲みすぎて寝坊してしまった私の大失態です。私が運転を代わろうとしても、親父さんは頑としてハンドルを離さない。危なっかしくて生きた心地がしませんでした」と笑う。
 四年近い付き人兼運転手からの「卒業」と「独立」を言い渡されたのも車の中だった。「車を止めて号泣していると、親父さんが『あのな、別に急ぐわけじゃないけど、そろそろ行こうか』と優しくかけてくれたあの声を忘れられません」
 独立後もクレージーキャッツと仕事をしていたので、植木の車を運転していた。初めてのマイカーを買ったのはかつての勤務先から。その後は当時の同僚から毎年のように新車を買い替えたという。「恩返しの気持ちもあった」。付き合いを大切にする優しさが車人生に彩りを添えた。

ドラマ「すぐ死ぬんだから」から。主演の三田佳子(左)と

<こまつ・まさお> 1942年、福岡市博多生まれ。64年に「ハナ肇とクレージーキャッツ」の植木等の付き人兼運転手。テレビ番組「シャボン玉ホリデー」でデビューし、舞台や映画、テレビで人気者に。映画評論家淀川長治さんのものまね、「電線音頭」「しらけ鳥音頭」「小松の親分」などのキャラクター、「知らない、知らない」などのギャグで知られる。俳優としても活躍。日本喜劇人協会会長。NHKBSプレミアムで23日にスタートするドラマ「すぐ死ぬんだから」(日曜午後10時、全5回)に出演。

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