アウティングされた一橋大院生の死から5年 弁護士になった同級生 「差別、偏見をなくしたい」

2020年8月24日 05時50分

亡くなった学生や事件への思いを語る同級生の男性=東京都内で

 一橋大学(東京都国立市)で2015年8月、法科大学院の男子学生=当時(25)=が校舎から転落死した。同性愛者であることを、同級生に暴露(アウティング)された2カ月後だった。死から24日で5年。当時の同級生で卒業後に弁護士になった男性は、弁護活動を通じ「性的指向や性自認による差別、偏見をなくしていきたい」と願う。(奥野斐)

◆「何かできたのでは」今も後悔

 「法律家を志す人の中でもアウティングが起きてしまった。同級生として何かできたのでは」。男性は今も悔やむ。亡くなった学生とは約1年半、同じ教室で授業を受けた。優秀で人当たりがよく、好きな漫画やアニメの話で盛り上がった。

弁護士を目指して勉強していた男子学生の実家の本棚。手前は、よく弾いていたチェロの形をしたオルゴール

 亡くなったのは模擬裁判の日。授業中から体調が悪そうだったのを覚えている。その日の夕方だったろうか、校舎から転落したと教職員から説明を受けた。
 亡くなったと聞かされた時は、何が起きたか分からなかった。夏休みだったこともあり「クラス内でもなんとなく話題に出さないような雰囲気があった」と振り返る。
 学生の死から1年たった16年8月、アウティングが起きていたと知った。学生の両親が大学と同級生を相手取り損害賠償を求めて提訴したことが、ニュースで流れた。訴状などによると、学生は15年6月、同級生約10人が参加する無料通信アプリ「LINE(ライン)」のグループに同性愛者だと書き込まれ、吐き気や不眠など心身に不調をきたしたという。

同性愛者であることを暴露され、その後転落死した男子学生の遺影。奥は愛用していたチェロ

◆「繰り返してはいけない」集会にも参加

 「自分も彼を傷つける振る舞いをしていなかっただろうか」。男性も不安が募った。「何の罪滅ぼしにもならないが、繰り返してはいけない」と、LGBTなど性的少数者への理解を広げるパレードや事件の集会、人権問題を学ぶ勉強会に参加するようになった。
 一橋大の事件をきっかけに、アウティングが社会問題化。大学のある国立市は18年4月、アウティング禁止を明記した条例を施行。今年6月には、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により企業に対策が義務づけられるなど、社会は変わりつつある。
 現在、弁護士として働く男性は「苦しんだ彼の分もと言うのはおこがましいけれど、こうした悲しい事件が起きないようにできることをしたい」。
 裁判は、同級生と和解が成立。大学側とは昨年2月の東京地裁の1審判決で遺族の請求が退けられたが、現在は控訴審で和解に向けて協議中だ。

◆LGBT学生らの支援サークルが追悼動画を製作

 男子学生の転落死事件から24日で5年を迎えるのを機に、一橋大の学生らが事件を振り返り、男性を追悼する動画を制作した。(竹谷直子)
 動画を作ったのは、一橋大でLGBT学生らを支援しているサークル「LGBTQ+ Bridge Network」の代表本田恒平さん(25)、副代表の西良にしら朋也さん(22)、当事者でもある山口紗英さん(21)。

◆1年に1度、思い出す機会を

 昨年までは、有志の学生らが命日に合わせて学内に献花台を設けていた。今年は、新型コロナウイルス感染予防で学内への入場が制限されているため断念。「1年に1度、思い出す機会を」との思いから、インタビュー形式で3人が事件を振り返る動画とした。
 動画は約19分間。山口さんは「安心して過ごせる場というのが勉学につながる一番重要な部分」と、周囲の理解の重要性を訴えた。西良さんも「大学にいる人が排除されずに学ぶことができるのは基本的な権利だ」と主張した。
 取材に対して本田さんは「彼と同じ年齢を迎え、自分と重ねた時に、彼はつらかったのだろうと思った」と話した。
 動画は24日午前9時に同団体のホームページで公開し、追悼コメントも募集している。集まったコメントは遺族に届ける。ホームページはこちら

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