現金受領100人の処分見送りに疑問の声 河井前法相裁判

2020年8月26日 05時55分
 昨年7月の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、公選法違反の罪に問われた前法相の河井克行被告(57)と妻で参院議員の案里被告(46)の裁判のカギを握るのは、買収の意図を認めているとされる地元議員ら100人の法廷証言だ。検察当局は100人全員の刑事処分を見送っており、識者は、証人が検察の処分を恐れて迎合した証言をすることを懸念している。(山田雄之)

◆100人全員の実名挙げ現金供与の詳細を説明

 「克行前法相は以前から付き合いがあった議員だけでなく、接点のなかった議員や疎遠になっていた議員に対しても、なりふり構わず現金を供与した」
 検察側は初公判の冒頭陳述で、自民党広島県連が新人の案里議員を擁立することに反対し、現職議員だけを支援する方針を打ち出したことをきっかけに、克行前法相が買収を決意したと指摘した。
 公選法の買収罪は、現金の提供が選挙運動を目的としていたときに成立する。買収罪の立証には、選挙に絡んで現金を提供したかや提供の際の会話などがポイントとなる。
 検察側は克行前法相のパソコンの「あんり参議院議員選挙’19」というフォルダ内にあった「買収リスト」を基に、昨年3月から8月にわたる地元議員ら100人への現金提供について立件。冒頭陳述では、100人全員の実名を挙げながら、夫妻が現金を提供した時期や場所、金額の詳細を1時間にわたり説明した。

◆検察と地元議員の裏取引?

 克行前法相側は、地元議員らへの現金の提供はおおむね認めた上で、買収の意図を否定。現金は「陣中見舞い」や「当選祝い」だったとし、「選挙運動ではなくて政治活動に伴う供与だ」と反論した。
 その上で訴えたのが、検察と地元議員らによる「裏取引」だ。
 買収事件では通常、現金を受け取った側も起訴される。2007年の岐阜県の町長選では、候補者のビラを配る報酬として現金5000円を受け取った運動員49人が略式起訴され、全員が罰金10万円となった。
 だが、今回の事件で検察は、地元議員らを誰ひとり起訴していない。検察幹部は「国会議員と地方議員では力関係が違う。無理やり押し付けられた面がある」と強調するが、300万円を受け取ったとされる元国会議員秘書も不問となっている。
 克行前法相の弁護人は、「立件や刑事処分をしないことを暗に伝え、利益誘導で自白を得た。違法性の高い捜査手法で、速やかに控訴を棄却すべきだ」と裁判の打ち切りを求めた。
 案里議員側も「地元議員らの供述の任意性、信用性を認めることはできない」と訴えた。

◆「地元議員らも公平な起訴を」

 刑事処分の見送りは公判にどのような影響を与える可能性があるのか。
 成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「検察の意に沿うように証言しないと、報復として起訴されるのでは、と恐れる証人も出てくるはずだ。検察側は現金を渡したとして夫妻を起訴している以上、現金を受け取ったと認定している地元議員らも公平に起訴すべきではないか」と話す。
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「裏取引をしているのではないかと疑われるのは当然。真実を明らかにする公正な裁判になるのか疑問だ」と指摘した。

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