蚊が運ぶ感染症 温暖化で高まるリスク

2020年8月26日 09時30分

<地球異変・「コロナ後」と温暖化(下)>

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、東南アジアでは別の感染症も猛威を振るった。蚊を媒介とするデング熱。シンガポールでは患者数が2万人を超え、過去最多を記録した。
 背景として考えられているのは、買い物などを除く外出の原則禁止と在宅勤務といった新型コロナの感染防止対策。自宅にとどまる人が、住宅地の水たまりで繁殖した蚊に刺されるケースが増えたとみられる。

◆日本生息のヒトスジシマカは北上中

 デングウイルスを原因とするデング熱は、熱帯や亜熱帯地域で毎年1億人が発症するとされる。主な症状は38度以上の高熱や全身の発疹。まれに重症化して出血症状を起こし、死に至ることもある。特効薬やワクチンはなく、感染しても約半数は無症状だ。
 日本もデング熱とは無縁ではない。ウイルスを媒介する蚊の一種ヒトスジシマカがもともと生息し、年平均気温11度以上の場所にすみ着く。1940年代後半は本州の北関東から南で見られたのが、90年代以降の約15年で、本州北端の青森県まで広がった。
 「地球の歴史から考えると、分布域の広がりは急速だ」と、国立感染症研究所の葛西真治・昆虫医科学部長。「地球温暖化が生態系を変化させる要因。いつ北海道で見つかってもおかしくない」と指摘し、北海道南部で調査を続けている。
 懸念は、まだある。日本のヒトスジシマカの生息の密度が高いことだ。人に寄ってくる蚊を8分間で何匹捕まえられるか調べると、「東南アジアなどの流行地では10匹いくかどうかなのに対し、国内では数十匹は珍しくなく、多い時は200匹を超えることもある」と葛西部長。実は流行地よりも蚊が密集した環境で、私たちは生活している。
 ただし、蚊がいるだけでは流行は起きない。日本にデングウイルスが常在しないためだ。ウイルスは、流行地で感染した人が入国することで持ち込まれる。日本で確認されるデング熱のほとんどが輸入症例で、2019年の患者は461人と、1999年の集計開始以来最多となった。
 国内感染や流行は、海外で感染した人が日本でヒトスジシマカに刺され、その蚊がウイルスを持ち、別の人を刺すことで起こる。14年には、東京・代々木公園で刺された多くの人が感染し、約70年ぶりの国内感染となった。

◆熱帯の蚊が日本で定着の恐れも

 「蚊の生息域を広げる温暖化は流行の潜在的リスクを高める」と、東京大大学院の橋爪真弘教授(環境疫学)は指摘する。熱帯地域の吸血活動が盛んなネッタイシマカが航空機や船に紛れ込んで日本に入り込み、越冬するようになってしまえば、よりリスクは増す。
 水際だけではなく、蚊が卵を産む小さな水たまりをつくらないなど、地道な対策が欠かせないとし、橋爪教授はこう強調した。
 「気候変動によって健康リスクが将来にわたって変化することは避けられない。自分たちの行動様式や社会システムを環境に合わせることが、リスクを少しでも下げることになる」 (渡辺聖子)
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