「他国に脅威与えぬ」方針揺らぐ 敵基地攻撃は専守防衛の枠内か逸脱か

2020年8月27日 05時50分

 他国の領域内を標的にする敵基地攻撃能力の保有は、日本の安全保障政策の大転換にも直結する。専守防衛の枠内なのか、逸脱かが大きな論点だ。国際社会に発信してきた「他国に脅威を与えない」という防衛の基本方針も揺らぎかねない。(上野実輝彦、川田篤志)

◆攻撃を防ぐのに「やむを得ない最小限度」

 政府は敵基地攻撃に関して、歴代防衛相の国会答弁などで「誘導弾などによる攻撃を防ぐのに、やむを得ない最小限度の措置を取ることは、他の手段がない限り、自衛権の範囲に含まれる」と、憲法上可能という立場を取ってきた。しかし、上智大の高見勝利名誉教授(憲法学)は「専守防衛を逸脱する」と明言し、違憲だと断じる。
 敵基地攻撃を巡る政府見解は、鳩山一郎内閣が1956年2月に示した憲法解釈を現在も引き継いでいる。「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、相手国の領域内にあるミサイル発射台などを攻撃することも自衛の措置として認められるという内容だ。

◆「政策判断で保有せず」に落ち着く

 この見解が出されたのは、自衛隊創設の約1年8カ月後。当時の鳩山首相が「飛行機で飛び出して(敵)基地を粉砕してしまうまではできない」と指摘する一方、船田なか防衛庁長官は「敵の基地をたたかなければ自衛できない場合(がある)」と主張するなど、閣内でも答弁が定まらず、野党の追及を受けて憲法解釈を統一させる必要に迫られていた。その結果、「法理(憲法の理論)的には可能」で合憲だと整理しつつ、敵基地攻撃のための装備は政策判断で保有しないという説明に落ち着いた経緯がある。
 高見氏は政府が海外派兵を禁じていることに触れ「相手国に人を出すのはダメだが、兵器なら良いというのは無理がある。単なる言葉遊びにすぎない」と批判。敵基地攻撃能力の保有を求めた自民党提言は、米軍に矛(攻撃)を委ねて自衛隊は盾(防衛)に徹する役割分担に変わりはないと説明するが「そもそも憲法は、相手国に入り込んで自衛権を行使することを想定しておらず、専守防衛の域を超えている」と強調した。

◆防衛計画大綱の基本方針変えるのか

 歴代政権は過去の戦争の惨禍を踏まえ、日本が専守防衛に徹して軍事的な脅威を与えない国であるとの発信を重視。1995年以降、5回の改定を経た防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」は「憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」との基本方針を明記し、安倍政権が2018年に策定した現大綱まで維持している。敵基地攻撃能力を保有するなら、この方針を変えるのかの説明が求められる。
 安倍政権が13年に初めて打ち出した新たな外交・安保政策「国家安全保障戦略」でも「国家安全保障を達成するためには、国際社会や国民の理解を得ることが極めて重要」「諸外国との協力関係強化や信頼醸成を図る必要がある」と強調していた。
 中国は「日本が歴史の教訓をくみ取り、専守防衛の約束を誠実に履行し、行動で平和発展の道を歩むよう促す」(外務省副報道局長)と早くも警戒している。
 米中対立などで東アジア情勢の緊張が高まる中、近隣諸国の理解を得ないまま、敵基地攻撃能力の保有へと進めば、地域の新たな懸念材料になる可能性もある。

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