緊張感を喜びと力に 国立劇場9月文楽 豊松清十郎

2020年8月28日 07時53分
 東京・国立小劇場で九月文楽公演(五〜二十二日)が上演される。新型コロナウイルスの影響で五月公演が中止となり、二月以来半年余ぶりの公演。今回は初めて四部制の形式をとって各部の上演時間を短くするなど、感染防止策を施す。その第四部は名作「壺坂観音霊験記(つぼさかかんのんれいげんき)」。盲目の夫に尽くす妻お里を操る豊松清十郎(とよまつせいじゅうろう)(61)は「コロナで先行きはまだ見えませんが、千秋楽まで一生懸命つとめたい」と話す。 (山岸利行)

「壺坂観音霊験記」でお里を演じる豊松清十郎

 コロナ禍で三月以降、公演中止が続いた舞台芸能。文楽も例外でなく、同劇場と大阪・国立文楽劇場での本公演は開催できなかった。華やかさと気品ある女形の人形遣いとして人気がある清十郎は「先の目標がなく、芯が抜けた状態でした。人形(遣い)は舞台に立ち続けることが修練で、それが自分の体になっていくもの」と日々の舞台の重要性を話す。
 何もしないまま日々が過ぎ、「久しぶりに人形を持ってみたら(重くて)持てなかった」というほど、体も変わっていたという。だが、公演が決まった今は「久しぶりで緊張感はありますが、それを舞台に立てる喜びと力に変え、いい舞台にできたら」と気持ちを集中させる。
 小学三、四年のころに歌舞伎や文楽を見て「違和感なく面白かった」と古典芸能の世界へ。一九七一年、十二歳で四代目豊松清十郎に入門。七四年、足遣いで初舞台。二〇〇八年、五代目豊松清十郎を襲名した。初舞台から四十七年目。「お客さまに支えられてきました。七十歳でも八十歳でも一生懸命やるしかありません」と、言葉には謙虚さがにじむ。
 第四部は「文楽入門〜Discover BUNRAKU」として、「壺坂観音霊験記 沢市内より山の段」が解説付きで上演される。
 大和国(奈良県)壺坂寺の門前に貧しいながらも仲良く暮らす沢市とお里夫婦。目の見えない沢市はある時、自分がお里の足手まといになると思い、滝つぼに身を投げ、お里も後を追う。ところが、観音の霊験によって…。夫婦愛と生命の再生の物語で、文楽初心者にも分かりやすい作品。
 清十郎は「お互いを思いやるゆえに、それぞれ命を絶つ。沢市の心の内は複雑ですが、お里はいちずに沢市を思っている。お里が沢市を愛している姿を見ていただき、最後は理屈なしで『よかった』と思っていただき、気持ちも温かくなってもらえたら」と話す。
 人形は主遣い、左遣い、足遣いの三人で動かす共同作業。「密」なイメージもあるが、「三人は同じ方向を向いており、話さないので飛沫(ひまつ)は問題ありません」と説明する。
 文楽や歌舞伎、能など古典芸能はまだまだハードルが高いと思われがちだが、「あまり深く考えず、ぼーっと見ていただいてもいい。太夫(語り)の声、三味線の音色、人形の動きなど、何かを感じてもらえたらうれしい。まずは劇場に来て、見てほしいですね」

◆コロナ対策万全

 国立小劇場での文楽公演は通常560席だが、9月公演はコロナ対策として240席に抑える。太夫の飛沫がどれくらい飛ぶかの検証=写真(国立文楽劇場提供)=結果を踏まえ、上手の右前方の席は空けるようにした。また、歌舞伎座と同じように4部制にして各部の上演時間を短くし、客席の入れ替えの頻度も増やす。
 9月文楽公演の演目は次の通り。
 ◇第1部(午前11時開演)「寿二人三番叟(ことぶきににんさんばそう)」「嫗山姥(こもちやまんば)」
 ◇第2部(午後1時45分開演)「鑓(やり)の権三重帷子(ごんざかさねかたびら)」
 ◇第3部(同5時開演)「絵本太功記(えほんたいこうき)」
 ◇第4部(同7時45分開演)文楽入門−「壺坂観音霊験記」
 国立劇場チケットセンター=(電)0570・07・9900。

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