コロナ対策・モリカケ・桜…疑惑や難題積み残し 安倍首相辞任表明に関係者ら困惑

2020年8月29日 05時55分

記者会見で辞意を表明し厳しい表情を見せる安倍首相=28日午後5時19分、首相官邸で

 「国民の負託に自信を持って応えられなくなった」。新型コロナウイルスの収束がいまだ見通せない中、第1次政権に続き健康問題で辞任を表明した安倍晋三首相。記者会見では7年8カ月の実績を強調したが、森友・加計学園問題や「桜を見る会」問題では「政権の私物化」との批判がつきまとった。コロナ禍での突然の退場に「こんな中で国の責任者が退くのは残念」などと困惑や冷ややかな声が上がった。

◆「現場の声聞く姿勢が希薄」―コロナ対策

  東京都内で認可保育所を運営する社会福祉法人の臼坂弘子理事長(73)は「現場では『3密』になりやすい状況の中、保育士たちが工夫しながら必死に頑張っている。こんな中で国の責任者が退くのは残念」と話した。新型コロナによって、子どもの育ちを守る保育の必要性が明らかになったといい、「保育行政を見直してほしかった」。
 江戸川区の介護施設で働く40代女性職員は「正直、首相が代わっても現場は変わらない」と冷めた見方を示す。施設では、消毒や新型コロナによる面会制限で入居者のケアなど職員の業務が増え、マンパワーが足りていないといい、次の首相には「もっと介護現場に目を向けてほしい」と求めた。
 夏休み明けの小学校で、児童の学習や新型コロナの感染対策に追われる都内の公立小学校教員宮沢弘道さん(43)は「さまざまな問題が総括されないまま、体調を理由に辞任することになり、残念。モヤモヤした気持ちが残る」。
 安倍首相が2月にトップダウンで打ち出した「一斉休校」要請などで「教育の独立性が軽んじられていると感じることが多かった」と明かす。「教員は疲弊し、子どもたちはストレスを抱えている。首相は現場の声を吸い上げようとする姿勢が希薄ではなかったか」と指摘した。
 首相と付き合いがあった元日本医師会常任理事の伯井俊明さん(76)は「医療者の立場からすると、もう少し社会保障政策に目を向けてほしかった」と語る。新型コロナへの対応ではPCR検査の不足など不十分な面があったとしつつ、「総理大臣として、経済・社会活動と感染拡大防止の両立に努めた」と評価した。 (奥野斐、土門哲雄、藤川大樹)

◆「真実明らかにする努力を」―モリカケ・桜

「桜を見る会」で招待客と記念写真に納まる安倍首相(中央左)と昭恵夫人ら=2019年4月、東京・新宿御苑で

  国会で足かけ2年にわたり追及された学校法人「森友学園」の国有地売却問題。疑惑の端緒をつかんだ大阪府豊中市議の木村真さん(55)は「首相への忖度そんたくが働き、国有地のたたき売りや公文書改ざんが起きた。この責任は免れない」と批判した。
 一連の問題では、決裁文書の改ざんを強制された財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん=当時(54)=が命を絶った。国会で安倍首相の責任を追及した宮本岳志前衆院議員(60)は「赤木さんの妻が真実を知りたいと声を上げている」と強調。「首相は自ら再調査を指示したり、昭恵氏を国会で証人に立たせたりするなど、真実を明らかにする努力をしてほしい」と訴えた。
 税金の私物化との批判を浴びた「桜を見る会」を巡り今年1月、首相に対する告発状を提出した沢藤統一郎弁護士は「本来は選挙で『ノー』の民意を示し、退陣させる形が望ましかった」と複雑な思いをのぞかせる。桜を見る会の問題などについては「ずさんな公文書管理や説明責任を果たさない姿勢など、負の遺産を積み残されたままだ」と疑惑解明が道半ばだとした。

◆「責任は曖昧なまま」―集団的自衛権

  他国を武力で守るなど戦争参加への道を開いた集団的自衛権についての憲法解釈を変更し安全保障関連法を整備した安倍首相。法案に反対した学生グループSEALDs(シールズ)の元メンバー、元山仁士郎さん(28)は「デモなどで声を上げ続け、自分が対峙たいじしていた安倍さんがついに辞めるのは、にわかには信じ難い感覚。あくまで体調不良ということなので、責任は曖昧なままだ」と話す。
 一方、日米同盟の強化が進んだ防衛省幹部は北朝鮮の弾道ミサイル開発などを例に挙げ「新たな安全保障環境に対応する基盤ができた」と評価する。ある幹部自衛官は「安倍政権になって自衛隊と官邸の距離は縮まった」と振り返るが、一方で「それが良いのか悪いのかは分からない」とも。自衛隊を憲法に明記する改憲も掲げていたが実現しなかった。幹部自衛官は「今、それが必要だとは思わなかった」とも話した。

◆「成果なく評価しようもない」―拉致問題

2019年2月、北朝鮮による拉致被害者家族らとの面会であいさつする安倍首相(右から2人目)=首相官邸で

  安倍首相が最重要課題としていた北朝鮮による日本人拉致問題は在任中、解決の糸口をつかめなかった。拉致被害者の兄で家族会元事務局長の蓮池透さん(65)は「成果は何もなく、評価のしようもない。任期中に解決する雰囲気を演出して『やってる感』を見せただけで、金正恩キムジョンウン朝鮮労働党委員長との会談も実現せず、米国のトランプ政権に丸投げしていたのが実態だった」と指摘した。
 安倍政権が推進してきたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)。横浜市への誘致に反対してきた広越由美子さん(40)は「首相一人が辞めてもIR問題の解決にならない」と冷静に受け止めた。市内のJR東戸塚駅近くで街頭活動中、ニュースで辞任を知ったといい、「次の首相が推進派だと横浜への影響も大きい。警戒している」と話した。 (小沢慧一、原田遼、長竹祐子、荘加卓嗣、梅野光春、杉戸祐子)

関連キーワード

PR情報

社会の最新ニュース

記事一覧