あれから ルワンダジェノサイドから生まれて ジョナサン・トーゴヴニク 写真・インタビュー

2020年8月30日 07時00分

◆出生の真実を共有した子たち
[評]河原理子(みちこ)(ジャーナリスト)

 私のお父さんは、誰なの?
 子どもに繰り返し聞かれてきて、あるとき母親は、真実を伝える決心をした。
 ジェノサイド(大虐殺)のとき、たくさんの親類が鉈(なた)で殺され、私はレイプされて、あなたが生まれた――と。
 一九九四年アフリカのルワンダで、大統領暗殺をきっかけに、政権側のフツの民兵などが少数派ツチを襲う大虐殺が起きた。そのとき残忍な性暴力を受けて、妊娠、出産した女性たちと子どものことを伝える二冊目の本である。
 著者は、二〇〇六年にエイズの取材で訪ねたルワンダで母親の一人の話を聞き、衝撃を受けたという。三年通って母親たちの話に耳傾け、まっすぐ前を見る母子のポートレートと共に伝えたのが前作。
 今作『あれから』は、母子十六組のその後を、二〇一八年のインタビューと写真、前作の写真で伝える。著者の活動を知る大学教員竹内万里子さんの尽力で、英文を併記して日本で最初に本になった。
 十数年の変化は、写真では一目瞭然だ。前作では小学生くらいだった子どもたちは、二十代の大人になっている。だが、最大の変化は心のなかにある。子どもたちは真実を母と共有したのだ。
 あれから、母たちは仲間とつながりカウンセリングを受けてきた。子どもへの嫌悪感を前作で訴えた母は、「娘と自分の運命を受け入れられるようになって、ようやく変わりました」と話す。真実を知って泣く娘に、こう伝えたという。「希望を捨てないで。私はあなたを愛している」。著者は、子どもたちの就学援助の財団をつくり、母のカウンセリングも支えてきた。
 前作にはなかった子どもたちの語りが、今作を、深くて色彩豊かなものにしている。「心が突き刺されたように」感じて苦しみながら、母を思い、自分はどう生きていくのか静かな決心をする。
 親子でも、話は、ずれる。繊細なものは繊細なままに、一人ひとりの声を伝えようとする著者の姿勢に敬服する。性暴力の過酷さと、生きることの圧倒的な力が、私たちの胸に深く沈殿する。
(竹内万里子訳、赤々舎・3850円)
1969年イスラエル生まれ。写真家、映像作家。現在は南アフリカに住む。

◆もう1冊 

イマキュレー・イリバギザ、スティーヴ・アーウィン著『生かされて。』(PHP文庫)

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