池江選手が1年7カ月ぶり実戦 50m自由形「第二の水泳人生の始まり」

2020年8月30日 05時50分

女子50メートル自由形を終え、涙をぬぐいながら引きあげる池江璃花子選手=東京辰巳国際水泳場で(代表撮影)


 白血病で長期療養していた競泳女子の池江璃花子選手(20)=日本大2年、ルネサンス=が29日、東京都江東区の東京辰巳国際水泳場で開かれた都特別大会に出場した。2019年1月以来1年7カ月ぶりとなる実戦で力泳し「第二の水泳人生の始まり。いい形でスタートが切れた」と言葉に実感を込めた。
 自身が日本記録(24秒21)を持つ50メートル自由形に臨み、26秒32をマーク。レースを終えてプールサイドを歩くと、涙を流した。「タイムとか順位は関係なく、自分が泳いでいること、この場所で泳げたこと自体に、自分のことだけど感動した」と復帰戦を振り返った。
 昨年2月に白血病が発覚。長期入院を経て同12月に退院し、今年3月にプールでの練習を再開した。所属する日大水泳部の部員に新型コロナウイルス感染者が出た影響で7月末から練習を自粛していたが、今月中旬から再びトレーニングを行っていた。

◆「一人では乗り越えられない病気だった」

 594日ぶりの実戦だった。レース後、池江選手の目元はゆるんだ。「楽しかったのももちろんだけど、この1本を終えてほっとした」。競技者として再スタートを切った。
 19年1月のレースに出場後の海外合宿で異変を察知し、2月に緊急帰国。白血病の診断を受け、入院した。会員制交流サイト(SNS)には「いまだに信じられず、混乱している」と率直な気持ちを記した。同時に前向きな言葉もつづった。「さらに強くなった池江璃花子の姿を見せられるように頑張っていきたい」
 抗がん剤治療の副作用から嘔吐おうとを繰り返し、食欲も全くなかった。耐えるほかなかった時間。支えてくれる家族らのつらさが伝わり、切なさが募った。励みは同じように病気を患う人からの手紙。子どもからもメッセージが届き、活力をもらった。「一人では乗り越えられない病気だった」
 待ち望んだプールにようやく入れるようになると、仲間とおしゃべりをしながら、体を動かせる幸せをかみしめた。「病気の方たちに『ここまで強くなれるんだよ』っていうことを知ってもらいたい。中途半端なまま水泳を終わらせたくない気持ちもすごくあった」。心の強さで競技の世界に戻ってきた。
 「自分の水泳人生がまた始まると思うと、すごく胸がきゅっと締め付けられるというか。気持ちを切り替えられたいいタイミングだった」と語った20歳。体調優先に変わりはない。焦らず、着実に泳いでいく。(磯部旭弘)

◆「負けたくない気持ち、まだ残っていた」 一問一答

 池江はレース後、穏やかな口調で取材に応じた。
 ―レースを終えて。
 「すごく緊張した。目標は(日本学生選手権の参加標準記録を上回る)26秒8を出すことだったので、大幅に更新できた」
 ―タイムを見たときは。
 「タイムというよりも、組で1番になれるとは全く思っていなかった。改善点も見つかった。改善していけばどんどん記録は更新できる」
 ―一番の収穫は。
 「またここに戻って来られたと実感できた」
 ―課題は。
 「まだ50メートルとはいえ最後は体が動かなくなったりしていた。体つきも全然追いついていない。まずは体力の強化をやっていきたい」
 ―久しぶりのレースで呼び戻されたものはあるか。
 「アスリートとして負けたくない気持ちはまだ残っていた。ラスト15メートルくらいのときに初めてちらっと横を見た。体は疲れて動かなくなっているし、負けるんじゃないかと一瞬よぎったが、負けたくないと思って勝ち切れた」
 ―(飛び込む際の)スタートは決まったのか。
 「出遅れているスタートかもしれないが、それは完全に筋力が追いついていないから。今までと同じようなスタートをやっているつもりだが、脚力がそんなには戻っていない。瞬発力はもう少し時間がかかると思っている」

◆「往年の片りん見えた」平井ヘッドコーチ

 競泳日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは、復帰戦に臨んだ池江について「浮き上がって加速していくところは往年の泳ぎの片りんが見えた。焦らず頑張ってほしい」とエールを送った。病気と闘いながらも高い志を持ち続ける20歳の姿に「トップの選手は、彼女の姿勢に大いに学ぶ理由があると思う」と話した。
 昨年の世界選手権女子400メートル個人メドレー銅メダルの大橋悠依(イトマン東進)は「池江選手が戻ってきたことで水泳界もまた勢いづいていくと思う。自分も引っ張っていけるようにしたい」と刺激を受けた様子。池江と同い年で親友の今井月(るな=東洋大)は「本当にいい泳ぎをしていると思った。自分も刺激を与えられるように頑張りたい」と強調した。

◆「段階追ってステップアップ」西崎コーチ

 池江を指導する西崎勇コーチは、レース後の池江の表情を見て安心した。「きらきらした目で、笑顔で戻ってきた。すごくうれしかった」と振り返った。
 池江はプールでの練習を再開後、泳ぎ込みやウエートトレーニングをしているが、週3日は回復するための休息に充てている状況だという。万全のコンディションとは言い難いが、西崎コーチは「池江選手がつかみとったチャンスなので、意思を尊重することを考えている」と大会出場を後押しした。
 「(体の)戻り方は、イメージしていたより一歩、二歩早い感触はある」と西崎コーチ。ただ、当面は体重に気を配りつつ、体づくりが中心の計画を立てる。「段階を追ってステップアップしたい」とさらなるサポートを誓った。(磯部旭弘)

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