白紙の新聞、使えます

2020年8月30日 07時01分

輪転機に装着された新聞用紙。手前の紙の下に印刷装置、最奥の紙の下に「折り機」がある。印刷が始まると奥に向かって紙が送り出され、新聞の形に切断される

 記者にとって「白紙で新聞を売るつもりか」と言われるのは、つらい。締め切り時間が迫っても原稿がまとまらず、自分の記事の分だけ真っ白になった新聞が目に浮かび、頭も真っ白になる。けれど、実は「白い新聞」は売られている。

◆ペット用品や緩衝材に

 ピィピィ、ピピピ、と小鳥たちの声が響く「ことりカフェ」(台東区)の店内、コザクラインコのペアが身を寄せ合う鳥籠の底に英字新聞が敷かれていた。
 「水っぽいふんが出るので、吸水性がいい古新聞が一番なんです」と代表取締役の川部志穂さん(53)。七年前の開店当時、鳥籠の底に何を敷くかは、悩みの種だったという。毎日の掃除をさっと済ませられるのはもちろん、手軽に手に入ることも重要。ペット用の砂などを検討し、行き着いたのが、古新聞だった。

鳥籠の敷き紙に使われている英字新聞=台東区のことりカフェで

 おしゃれに見えることを意識して、英字新聞を使っているが、インコは紙をかじることがあり、インクが気になる。白紙の新聞の存在を川部さんに伝えると、「知りませんでした。理想的です」と目を輝かせた。
 実際、白紙の新聞は鳥を飼う人たちに使われている。インターネット通販サイトに出品された「新品の新聞紙 無地10キロ」の感想を見ると、鳥籠の敷き紙用に買った人が何人もいて「もっと早く知っておけば…」「文鳥ちゃんたちも怖がりませんでした」と評価の声が並ぶ。
 新聞紙は吸水性が高い。植物油などでできたインクと水がはじき合う性質を利用して印刷されているからだ。紙面データを焼き付けたアルミ板は、印刷したくない場所に油をはじく水が塗られている。本紙を印刷する埼京オフセット(埼玉県戸田市)の斉藤元明工場長は「水も油も染みやすく、乾きやすいのが新聞紙の特長」と説明する。印刷工場の手洗い場には、ペーパータオルと一緒に、白紙の新聞紙が置かれていた。

細長く切った白い損紙(左上)が置かれた手洗い場=いずれも埼玉県戸田市の埼京オフセットで

 あえて白い新聞紙を発行した新聞社もある。コロナ禍でトイレットペーパー不足が社会問題となっていたオーストラリアで三月、地元紙が「非常時にお使いください」と、記事が載っていない紙面八ページを内側に入れて発行した。白紙だからお尻に文字が…という心配もなさそう。水洗トイレが詰まりそうで日本ではお薦めしにくいが、断水時には古新聞紙を詰めたごみ袋を簡易トイレとして使うこともある。
 インクの色移りの心配がなく、引っ越しなどの荷造りでも重宝する。食器や陶器を包んだり、丸めて荷物の隙間に詰めたり。さまざまな素材がある緩衝材の中でも安価で、処分の手間も少ない優れ物という。
 古新聞と同様に災害時にはスリッパや防寒着代わりにも使える。ただ、掃除に使うときは、インクの油分があった方が油汚れを拭き取りやすいとされる。窓ふきは、白紙ではなく、古新聞がお薦めだ。

◆工場見学 白い「損紙」ができるまで

 「白紙の新聞」は毎日、生まれている。東京新聞を印刷する工場「埼京オフセット」の紙上見学で、新聞ができる仕組みを紹介しよう。
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 新聞製作ではまず、東京新聞で作られた紙面のデータをアルミ板に焼き付け、輪転機にあるローラー形の機械に取り付ける。そのアルミ板に水とインクを載せ、回転させながら紙に写していく。輪転機に装着されるのは巨大なトイレットペーパーのような白い紙。一本が約一トンもある。
 印刷された紙は最後に輪転機の先っぽにある「折り機」と呼ばれる専用の装置で新聞の形に切られ、折り畳まれる。

輪転機の刷り始めに出る白い損紙=埼京オフセットで

 工程は全自動。紙の先端をあらかじめ折り機に通しておかないと輪転機は動かないので、刷り始めの数十部は必ず白紙になる。その後、インクの付きすぎた紙面が数百部続き、ようやくきれいに印刷された新聞ができる。
 刷り始めの新聞は「損紙」と呼ばれ、毎月二十トン以上生まれて、古紙回収に回されている。「白紙の新聞」の販売は損紙の一部を再利用してもらう取り組みだ。
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 東京新聞のインターネット通販サイト「東京新聞オフィシャルショップ」では、白紙の新聞「無地新聞紙」を販売している。30枚(朝刊約5日分)で、送料を含め税込み450円。「東京新聞オフィシャル」で検索を。
 文と写真・福岡範行
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

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