「あっち行け」「ブタ!」 各地で相次ぐ「不適切保育」、園児の心に深い傷

2020年8月31日 05時50分
 園児を突き飛ばす、怒鳴る、食事を無理やり食べさせる―。こうした保育所内の「不適切保育」は、子どもが被害を訴えにくく表面化しづらい。厚生労働省は今月、これまでになかった全国的な虐待防止策づくりに着手したが、虐待の一因とされる保育士不足や労働環境の悪化を同時に是正する必要性を指摘する声も出ている。(奥野斐)

◆今も夜泣き

保育所の一歳児クラスに通う子どもが帰宅後に「痛い、痛い」と訴え、絆創膏を貼った時の様子=大阪府で(母親提供)

 「子どもは今でもトイレに入るだけで『キャーッ』と泣いてパニックになり、夜泣きもする。先生から受けた暴力や暴言を思い出すようです」。わが子が昨年、保育士から虐待を受けた大阪府の30代の母親は話す。
 母親によると、認可保育所の1歳児クラスだった当時、約10カ月間にわたり担任の女性保育士からトイレでたたかれたり、顔を壁に押しつけられたり、「ブタ!」「あっちに行け」などと暴言を吐かれたりした。
 退職した元職員から今年2月に電話があり、被害を知った。後から思えば、背中や顔が赤く腫れていたように感じたり、泣いて登園を嫌がったりしていた。だが、担任から説明はなく、子ども同士のトラブルやけんかと考えていた。「まさか保育所で虐待を受けているなんて…」
 母親は児童相談所や市に連絡したが、十分な調査や説明はされなかった。「児相は『家庭内の虐待しか対応できない』と言い、市は『園長を指導した』と繰り返すだけ」。母親は園長や担任と話し合いの場を設け、同僚に独自のアンケートも配った。最終的に担任は虐待をおおむね認めた。母親は「当初、明らかな虐待を園側が『不適切保育』と言うのも納得がいかなかった。市や第三者機関がきちんと調査し、対応する仕組みが必要」と訴える。

◆都内や福岡でも

 同様の被害は各地で起きている。東京都足立区の認可保育施設で昨秋、園長と主任保育士が複数の園児にトイレへの閉じ込めや放置、暴言を繰り返していたことが分かった。同僚が運営会社と区に訴えて判明、会社側は大筋で事実関係を認め、区は運営会社に改善を指導した。福岡市の認可保育所でも昨年、保育士8人が関わる園児への虐待や暴言があったとして、市が改善勧告を出した。
 待機児童対策で、都市部で保育施設が急増し、都内だけでも2014~19年で、1000以上の認可保育所が新設された。人手不足から、適性や能力が不十分な保育士を採用したり、育成が十分できない場合もある。

◆人手不足でストレスも

 預かった児童の様子から家庭内の虐待を見つけるなど、保育士は虐待予防や児童の保護などに率先して取り組むべきとされ、保育士が虐待する事態への対策は進んでいない。
 保育施設での虐待被害に詳しい寺町東子弁護士は「規制緩和や人手不足で保育士の労働が強化され、ストレスなどから虐待が起きやすい状況になっている」と指摘。「まずは国がお金をかけて人員の配置基準を手厚くし、保育士が余裕を持って保育できる環境にすることが必要だ」と話す。
 また、児童虐待防止法では保護者による虐待が対象で、保育施設などでの虐待が除外されている問題点を挙げ「悪質なケースからどう子どもを守るか、法制度の見直しも考えるべきだ」と強調した。

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