<考えるリニア着工 なぜ決まったCルート>(中)経済性重視、環境顧みず

2020年8月31日 07時17分

JR東海の幹部(左側)らが出席した国の交通政策審議会新幹線小委員会=2010年5月、国土交通省で

 二〇一〇年十月二十日、東京・霞が関。リニア中央新幹線のルートを決める国の交通政策審議会中央新幹線小委員会(交政審)で、中村太士・北海道大大学院農学研究院教授(61)=生態系管理学=は資料不足に苦言を呈した。「自然環境的にみてどちらがいいといったような議論は少々無理だと思われます」
 十九委員中、環境の専門家と呼べるのは自分一人。交政審は、環境への影響をほとんど顧みることなく、数字で比較できる経済性を主眼に、南アルプスを貫くCルートの決定まで突き進むことになる。
 もとをただせば、交政審の主眼は営業・建設主体や走行方式の決定で、ルートまで選ぶ必要はなかったが、委員長の家田仁・東京大大学院教授(当時)=旧国鉄出身=が「ルートも決める」と宣言。南アルプスを貫くCルートに太鼓判を押し、一一年に国土交通相に答申した。
 表向きは三ルートを公平に審議するとしていたが、Cルートの費用対効果を裏付ける資料を次々提出し、一部ではCルートしか試算をしないなど、初めから「結論ありき」で進展した。
 長野県からCルートの実現可能性の慎重検討を求める声も届いたが、旧国鉄出身の委員が「それほど大変なことにはならないだろう」と述べただけ。大井川の水質への影響も一部指摘されたが、地下水への影響は議論されなかった。
 JR東海の葛(旧字)西敬之名誉会長の手記によると、交政審が始まる二年前の〇八年、国交省へ「Cルートも実現可」との報告書を提出した時点で、JRは既にCルートに絞っていた。交政審のヒアリングでも山田佳臣社長(当時)は「これ(Cルート)しか道はない」と述べ、審議はJRの思惑通りに進んだ。
 「審議会は時間的にも資料的にも不足し、環境影響の観点からルートを決めるには無理があった。交政審の段階で地元の研究者も交えて議論していれば、あるいは『こんな審議じゃだめだ』と世論が騒いでいれば、ここまでこじれなかったかもしれないし、Cルートの選択そのものが変わっていたかもしれない」。中村教授はそう振り返る。
 東海道新幹線の利便性向上を期待して一一年のCルート決定を歓迎していた静岡県が、大井川の水資源問題とようやく真正面から向き合うことになったのは一三年九月。JRが大井川の流量は最大で毎秒二トン減るとの試算を公表し、流域に衝撃が走った。
 川勝平太知事は、県の対応が後手に回ったことを素直に認め「水を失うという認識が遅れ、県民には本当に申し訳ない」と再三わびている。
 大井川の流量問題で、県とJRは水面下で調整を進めたが、JRから満足いく回答は得られず。一七年十月の定例会見で川勝知事が突如、JRを猛批判して対立が表面化した。その溝は今に至るまで埋まっていない。

関連キーワード

PR情報

静岡の新着

記事一覧