自分の中の「戦争」

2020年8月31日 07時54分
 東京都武蔵村山市の「PTSDの日本兵と家族の交流館」を訪ねた。黒井秋夫さん(72)が今年五月に自宅の敷地に開設した。
 長く中国で従軍していた父親が心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったのかも、と黒井さんが思い当たったのは数年前。ベトナム帰還兵が苦悩を明かすDVDを見たのがきっかけだった。死後二十五年がたっていた。
 黒井さんが知る父は無気力で無口だった。定職に就くことはなく戦争体験を明かすこともなかった。尊敬することはできず、母親にも冷ややかな思いを抱いていた。
 「そういう家族のもとで育ったことが自分にどういう影響を与えたと思いますか」。そう尋ねると、黒井さんは「家族に情愛が持てなかったことが自分の性格をゆがめた部分があると感じている」と明かしてくれた。苦しくなった。自分自身について、思い当たる節があるからだ。
 中国で従軍したという私の祖父もほとんど話さない人だった。家業の文房具店で一日黙って店番をしていた。戦争による心の傷が関係していたかもしれないと思い至ったのは戦後七十年の取材をしていた時だ。その祖父のもと育った父も家族には無関心だった。
 どちらも亡くなった後で、何を尋ねることもできない。戦後七十五年の夏、家族関係を通じて自分の中にもあるかもしれない「戦争」の傷痕をなぞってみる。 (早川由紀美)

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