検証「安倍政治」 アベノミクス 失速の成長戦略見直せ

2020年9月2日 07時52分
 安倍首相の退陣はアベノミクスの終焉(しゅうえん)も意味する。円安誘導を軸とした戦略は株価を底上げしたが、賃上げや格差是正にはつながらなかった。次期政権は新たな成長戦略を早急に描く必要がある。
 アベノミクスと呼ばれる経済戦略の核心部分は既存の政策を踏襲したものにすぎない。ただ「三本の矢」と名付けてパッケージ化した点に特徴があった。
 まず政府は日銀と金融緩和政策の実施で合意し、それを長期間続けた。政府と日銀が歩調を合わせた異例の後押しが円安傾向と大規模な財政出動につながった。
 こうした分かりやすい政策の実行が、株価の回復と企業の財務体質の改善を演出したことは間違いない。その点でアベノミクスは、とりわけ大企業に大きな恩恵をもたらしたといえる。
 しかし多くの大企業は増えた収益を内部留保に回し、賃金の上昇は期待より低く抑えられた。金融緩和と財政出動が起こす資金循環の流れが、国全体の賃金アップをもたらすというシナリオは頓挫したと指摘できるだろう。
 「三本の矢」の中で最も期待を集めたのが成長戦略だ。その答えの一つが海外からの観光客の誘致だった。
 日本が伝統的に持つ「もてなす心」を活用した戦略は巧みで、中国を中心とした観光客の激増と大きな観光収入をもたらした。一時的とはいえ一定の経済効果を上げた点は評価すべきだろう。
 ただインバウンドと呼ばれた観光による効果はコロナ禍によってほぼ消失した。予測が難しかったとはいえ、極端に観光に寄り掛かった戦略のあり方には反省すべき点もあるのではないか。
 今、最も不安なのは雇用情勢だ。一人当たりの求職者数である有効求人倍率は七月時点で七カ月連続の悪化。コロナ禍による解雇や雇い止めも先月末、見込みを含め五万人を超えた。非正規労働者の雇用悪化は生活苦をもたらすレベルのはずだ。
 新政権の喫緊の課題はもちろん雇用の防衛だ。ただ同時にインバウンドに代わる成長戦略も期待したい。コロナ禍は国内外の産業構造や人々の働き方を根底から変えるだろう。環境の劇的変化は大変革のチャンスでもある。
 成長が見込める分野をあぶり出し、そこに集中的に投資し税制上の優遇も行う。新政権は、そのための大胆で斬新な戦略づくりに発足後、直ちに取り組むべきだ。

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