東京・大田の下町ロボット「YAOKI」日本初の月面探査へ

2020年9月2日 13時55分
月面探査ロボを操作する中島紳一郎さん(左から3人目)を囲むプロジェクトチームのメンバーたち。開発に加え、資金調達やPR活動などを協力して行っている=東京都大田区で

月面探査ロボを操作する中島紳一郎さん(左から3人目)を囲むプロジェクトチームのメンバーたち。開発に加え、資金調達やPR活動などを協力して行っている=東京都大田区で

  • 月面探査ロボを操作する中島紳一郎さん(左から3人目)を囲むプロジェクトチームのメンバーたち。開発に加え、資金調達やPR活動などを協力して行っている=東京都大田区で
  • 島紳一郎さんらのプロジェクトチームが開発した月面探査機。車輪の間にカメラがある
 東京都大田区の町工場で誕生した小型の探査ロボットが来年、月面を走る。米国の宇宙開発企業が打ち上げる着陸船で運び、計画通りに行けば日本初の月面探査となる。人気テレビドラマ「下町ロケット」の舞台になったものづくりの街に新たな歴史が刻まれるか。(浅田晃弘)

◆町工場から月へ リモコンで操縦

 JR京浜東北線大森―蒲田間の線路近く。町工場が点在する住宅地に「ダイモン」の作業所がある。ダイモンは、宇宙開発のためロボットクリエーター中島紳一郎さん(54)が8年前に1人で設立した会社だ。プロジェクトに賛同した金属加工「東新製作所」(石原幸一社長)から工場の一角を借り、月面探査機の開発と実験を続けている。
 細かな砂を敷き詰めて月面を模したコースを、2つの車輪で走る。形状を上下対称にしたり、車輪を球形にしたりするなどの工夫で転倒しても走行できるようにした。名前は「YAOKI(ヤオキ)」。ことわざの「七転び八起き」にちなむ。本番では、地球からリモコンで遠隔操縦し、撮影した映像を地球へと送る。
 幅と奥行きが15センチ、高さは10センチ、重さは600グラム。月への物資の輸送費は、1キロあたり約1億円が必要とされる。コストダウンのために軽量化を図った。

◆NASAの月計画に参加する企業と

 中島さんは、自らYAOKIの動画を撮り、YouTubeで公開。会員制交流サイト(SNS)で米国の宇宙産業に売り込んだ。米航空宇宙局(NASA)が公募で進める月探査のための物資輸送プロジェクトに参加するアストロボティック社から連絡があった。同社は来年、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のバルカンロケットを使い、着陸船を月に送る計画を立てている。時期は7月から9月の間で調整している。YAOKIは、この着陸船に載せてもらう。昨年秋、輸送についての契約を結んだ。
 月は大気がなく、真空に近い。昼間の気温は100度以上となるが、夜間はマイナス100度以下まで冷える。放射線の影響も直接受ける。耐えられるよう、東新製作所の金属用3Dプリンターで部品を作り、強度アップを図っている。

◆移動手段の新しい可能性、災害現場への応用も

 中島さんは、元自動車エンジニア。ドイツが拠点の部品メーカー、ボッシュなどに在籍し、アウディの四輪駆動システム「クワトロ」の開発も手掛けた。2011年の東日本大震災の翌年に起業し、風力発電機の設計などをしながら「モビリティー(移動手段)」の新たな可能性を追求しようと、こつこつと探査ロボの研究を進めてきた。
 探査は、毎年行う。2度目となる22年に人工知能(AI)による自動運転を実現し、NASAが、アポロ計画から半世紀ぶりの月面有人探査「アルテミス」を計画する24年には、100機のロボが連携した「群探査」に挑戦したいという。
 地球よりも過酷な環境に耐えられるロボットは、災害現場など「地球上のあらゆる場所」での活躍が期待される。東新製作所の石原社長は「大田区の加工技術のネットワークを生かして性能の向上を図り、海外へ売り込みたい」と話している。

月面探査 1969年の米アポロ11号の月面着陸から50年がたち、各国で無人探査計画が相次いでいる。近年の観測で、宇宙の長期滞在に必要な水が、月に存在する可能性が分かってきたことが背景にある。日本勢では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2022年度に無人月面着陸機「SLIM(スリム)」の打ち上げを目指しているほか、住友商事やスズキなど大手企業が支援する宇宙ベンチャー「アイスペース」が、22年の着陸、23年の探査の準備を進めている。

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