変えて隠して疑惑逃れ…モリカケ桜の記録はどこへ<安倍政権 緊急検証連載>
2020年9月3日 06時00分
<一強の果てに 安倍政権の7年8カ月(4)>
辞任を表明した8月28日の会見で、安倍晋三首相は7年8カ月の在任中に残したレガシー(遺産)を問われ、こう答えた。
「国民の皆さん、歴史が判断していくのかと思う」
ちょうどテレビで会見を見ていた三宅弘弁護士は、この発言に首をかしげた。「だったら安倍政権は、これまで国民が判断できるだけの記録を残してきたのだろうか」。頭をよぎったのは、官僚による忖度や「お友達優遇」と指摘された数々の私物化の疑惑だった。
◆森友、加計…変えたり隠したり
三宅氏は2018年まで政府の公文書管理委員会の委員を務めた。隠蔽、改ざん、廃棄ー。安倍政権下でずさんな公文書の運用に直面してきた。
例えば、首相の妻の昭恵氏が名誉校長に就いていた森友学園への国有地売却問題。17年に格安の払い下げの事実が明るみに出ると、財務省は「保存期間1年未満」を理由に取引の交渉記録を「廃棄した」と述べ、事実確認を拒んだ。決裁文書については、首相が「私や妻が関係していれば首相も議員も辞める」と答弁した直後、昭恵氏に関する記述などを削る改ざんが行われていた。
◆都合が悪いと「怪文書」
首相の知人が理事長を務める加 計 学園の獣医学部新設では、「総理の意向」との内部文書が報じられると、菅 義 偉 官房長官は「怪文書」と強弁。政府側は国会で「記憶にない」「記録はない」と繰り返した。
モリカケ疑惑を受け、政府は17年12月、公文書管理のガイドライン(指針)を改正した。
◆抜け穴、例外、あいまい基準
改正は当初、公文書管理委が手掛ける想定だった。ところが財務省にヒアリングを始める直前、首相直下の内閣官房から改正の原案が委員会に示される。突然の政府の方針変更に委員たちは驚いた。
原案は、文書の保存期間を「原則1年以上」と定めながら、抜け穴も用意していた。日程表など軽微な文書は「1年未満」との例外を設け、何を軽微とするかは各省庁の判断に委ねられた。委員からは、1年未満の扱いを助長しないか懸念を抱く声もあった。
2年後、首相主催の「桜を見る会」を巡り、委員の懸念は現実となる。公金で賄う行事に、安倍首相が多数の支援者を招いていたことが発覚。19年5月、野党が資料を要求したその日、内閣府は招待者名簿を廃棄した。招待客を取りまとめる内閣府は指針改正後、名簿の保存期間を1年から1年未満に変更していた。
◆「長期政権が残したのは負の遺産」
三宅氏は「指針を改正しても体質は変わっていない。仏を作って魂を入れずとはこのことだ」と語る。
記録をゆがめ、あったことをなかったことにする。公文書管理において、最長政権が残したのは負の遺産だった。(中沢誠)
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