木から酒 夢に酔う それぞれに香り立つ つくば市の森林総研

2020年9月3日 07時13分

木から酒を造る研究チームの大塚祐一郎さん(左)と野尻昌信さん=茨城県つくば市の森林総合研究所で

 米、麦、サツマイモ、ブドウ、トウモロコシ…。酒の原料は古今東西さまざまあるが、木の幹からの酒づくりが、国の研究機関の森林総合研究所(茨城県つくば市)で実現に近づいている。それぞれの木の香りが特徴の蒸留酒で、世界初とされる。順調なら本年度中にも第1弾の「スギ酒」の技術が完成する。
 「豊潤、フルーティー、甘い香りもある。木の種類によって味も香りも全然違うので『利き酒』は簡単です」。森林総研の1室に数本の瓶を並べ、担当研究者の野尻昌信さん(57)が説明した。
 瓶の中身はスギ、シラカバ、サクラ、ヤマザクラ、ミズナラ、クロモジの木からつくった蒸留酒。サクラは花、スギはたる酒、シラカバは熟したウイスキーのような香りがする。
 まだ市販用の酒として免許を取っていないうえ、安全性の確認中。香りを楽しむだけで、飲ませてはもらえなかった。
 しかし、担当の野尻さんと大塚祐一郎さん(43)は8月中旬、「研究の一環」として約1合ずつ試飲をしたという。「それぞれ特徴があり、みんなおいしい。悪酔いしないことを確かめた」と笑った。
 酒のアルコールは、糖に酵母を加え、発酵によってつくり出す。ワインになるブドウなど、糖分を含む果実は原料になる。米や麦などの穀物も、主成分のでんぷんが酵素によって糖に変わるため、酒づくりに使われている。

美しいチップから酒を生産

 実は木の幹にも糖が多く含まれている。そこで大の酒好きという大塚さんが「木から酒がつくれるのでは」と考えた。野尻さんは、木から燃料用アルコールを取り出す研究をしていた。2人で3年ほど前から、酒の試作を始めた。
 木に含まれる糖は、固い成分に覆われている。この成分を壊すため、特殊な機械を使い、スギを水中で1000分の1ミリ以下に砕いた。酵素と酵母を加えてみると、アルコール度数が約2%の発酵液ができた。

発酵タンク内のスギの発酵液

 味を試したところ、えぐみなどが残り「とても飲めたもんじゃない」が第一印象。しかし、焼酎のように蒸留させると「いける」と思える味になった。
 原料は有害な物質が含まれないように、食にかかわる木を選んだ。スギはたる酒、シラカバは割り箸、サクラはスモークチップに使われる。試作品に加えたミズナラは、ウイスキーのたるの材料。つまようじになるクロモジでも試し始めた。
 スギの場合、木材4キロからできる酒の量は、蒸留酒並みに度数が40度程度の酒なら、ウイスキーボトル(720ミリリットル)2本分になる。廃棄される端材や間伐材も原料として使える。
 森林総研は、国産木材の需要拡大や林業の振興につながることを期待する。安全性の確認などが終われば、民間企業が商品化へ名乗りを上げるのを待つことになる。既に複数の企業が関心を示しているという。
 国内には約1200種類の木があり、種類を代えれば多様な香りの酒が期待できる。「いろいろな地方で特産の木の酒が楽しめるようになったらいい。花見にサクラの酒、夏にはシラカバの酒で、季節を感じられる飲み方もあるなあ」と大塚さん。
 野尻さんも夢を膨らませる。「長い時をかけて育ってきた木を飲めるなんて、いいでしょう。おしゃれなバーに木の酒がずらりと並び『今夜はスギの100年物をいこうか』と頼めるようになるかも」
文・宮本隆康/写真・市川和宏
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