禁煙タクシー第1号の安井さん、喫煙歴ないのに咽頭がん再発 余命1年の訴え「空車時も規制を」

2020年9月3日 13時55分
 「運転手とお客さんの健康を守りたい」。32年前、国内最初の「禁煙タクシー」を走らせた元運転手の安井幸一さん(87)=東京都杉並区=が、本紙に「8月に喉頭がんの治療医から余命1年との宣告を受けた」と手紙を寄せた。自宅での取材に「喫煙歴がないのに喉頭がんが再発するとは」と悔しさをにじませ、「最期まで受動喫煙の被害者を出さないように行動する」と声を振り絞る。(青木孝行)

タクシーでの受動喫煙などについて語る安井幸一さん=8月、東京都杉並区で(沢田将人撮影)

 愛媛県出身の安井さんは、15歳の時に肺結核を患い、療養施設で約2年間過ごした。ここで親しくしていた愛煙家の50代の男性が血を吐いてあっけなく亡くなったことが、受動喫煙の健康被害を考えるきっかけとなった。18歳で上京し、都内のタクシー会社に就職。41歳で個人タクシー事業者となった。
 当初から、たばこの煙で目やのどの不快感に悩まされ、30代からは息苦しさを感じるように。車内に立ち込める煙に、たまらず窓を開けると、客から「寒いじゃないか」と怒鳴られたこともあった。
 「このままでは、体がもたない」。熱心な弁護士の協力を得て、運輸省(当時)と何度もかけあった末、1988年2月、車内での喫煙を拒否できる「禁煙タクシー」の認可を全国で初めて得た。車両の上に「禁煙車」との表示を掲げた。70年代後半から全国で嫌煙権運動が広まり、旅客機や列車、公共スペースで禁煙化が進んだことも後押しした。

禁煙タクシー第一号の安井幸一さん。屋根にある「禁煙」の表示は、認可が認められた当初のもの=2004年7月、東京都杉並区で

 「サービス業なのに、何で禁煙なんだ」と毒づく客もいたが、多くは「禁煙車で良かった」と好評だった。安井さんは、6年前、高齢を理由に運転手を引退。「禁煙タクシーの普及に一役買えたのでは」と自負する。今年4月には、改正健康増進法が全面施行され、タクシー車内での喫煙は禁止になった。
 一方で、安井さんには、まだ納得できないことがある。国土交通省の旅客自動車運送事業運輸規則に「空車の運転手は、車内で喫煙できる」と解釈できる文面が残っており、改正健康増進法と整合性が取れないと指摘。「受動喫煙で命を削ってきた者として、監督官庁が運輸規則をあいまいな状態にしておくことに我慢がならない」と憤る。
 安井さんが最初に喉頭がんとなったのは10年前。飲酒はほとんどせず、主治医からは「受動喫煙によるがん」と言われた。これまでに2度、手術と抗がん剤治療を受けたが、今度は治療が施せない状態という。
 一日一日が勝負になる。「生きているうちに、道路運送法の一文に『タクシー車内は禁煙』との文言を加えるように行動していく」。同省自動車局旅客課の担当者は本紙の取材に、空車時も車内は禁煙となるように「運輸規則の一部削除を検討している」としている。

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