近場の「いい仕事」発見

2020年9月7日 07時40分
 遠出ができなかったこの半年、趣味は散歩になった。ありがたいことに、多くの区や市が、お散歩マップを作っている。実にこまごまと、由緒があるものならどんなものでも見逃さないぞ、というくらい、見どころが書き込まれている。
 それに従って歩くと、「おお」と驚くことが多い。生まれ育ちが関東ではないこともあり、初めて知ることばかりだ。
 たとえば川崎市高津区の「久地(くじ)円筒分水」。昭和初期にできた円形の池で、中央から水が噴き出している。農業用水をいくつかに分けるため、水量が多く必要な水路へ導く切れ目は大きく、少量でいい水路へ導く切れ目は小さくなっている。簡潔で正確。水争いを防ぐ巧みな知恵である。
 同じ川崎市の中原区には、「有吉堤」というのがあった。大正時代の初め、多摩川の氾濫に悩まされていた住民の決起を受け、当時の有吉忠一神奈川県知事は、道路のかさ上げによる代用堤防を造った。堤防を新設すると東京側に水が流れ込むおそれがあると対岸で反対運動が起き、国も許さない。そこで一休さんのようなとんちで、ピンチを切り抜けたのだった。
 先人の「いい仕事」も、文化財に携わる人たちの努力なしでは世に伝わらない。コロナ禍を機に、近場の文化財保全に脚光が当たるといいと思った。 (吉田薫)

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