ゼミ先輩の人生伝え続ける、ライター水谷さん 上智大生殺害事件 

2020年9月8日 05時50分

母校の近くで小林さんなどについて話す水谷竹秀さん=東京都千代田区で

◆「事件はまだ終わっていない」

 1996年9月、上智大4年の小林順子さん=当時(21)=が東京都葛飾区の自宅で殺害、放火された事件で、小林さんの大学のゼミの後輩でこの事件や犯罪被害者の苦悩を伝えている記者がいる。ノンフィクションライター水谷竹秀さん(45)=東久留米市=は昨年、警視庁から捜査協力の依頼を受けたことをきっかけに、関係者を取材して小林さんの人生を描いた。「事件はまだ終わっていない」。ジャーナリストになる夢を果たせなかった先輩の思いを伝えている。(奥村圭吾)

◆DNA型の検査協力を機に取材

 「警視庁捜査1課です。上智大生殺害事件の捜査で伺いました」。昨年9月下旬の日曜日の昼前。自宅を訪ねてきた男性捜査員から「DNA型の検査に協力してほしい」と頼まれた。
 「任意ですか?もし断ったら」と尋ねると「大丈夫ですが、水谷さんのことを周囲に聞いて回ることになります」と言われた。そのため、検査用スポンジで口の粘膜を取って提出した。
 「23年がたつのに、まだ捜査を続けていたのかと正直驚いた」と水谷さん。この出来事を会員制交流サイト(SNS)で発信すると、出版社の目に留まり、事件の特集記事を手掛けることが決まった。
 水谷さんは小林さんの2つ下の後輩。3、4年生が所属するゼミは入れ違いで面識はなかった。小林さんはどんな人生を歩んだのか、なぜ事件に巻き込まれてしまったのか、捜査の進展は―。現場を歩き、頭に浮かぶ疑問を遺族や知人、捜査当局に直接ぶつけた。

◆意欲的に現地調査をした姿描く

 特集記事は昨年12月、主婦と生活社(東京)の雑誌「週刊女性」に掲載され、同社のニュースサイト「週刊女性プライム」にも転載された。同大英語学科で最もレベルの高いAクラスに所属し、東南アジアの文化を学ぶゼミで意欲的に現地調査を行った小林さんの姿を描いた。米国留学出発の2日前にまな娘を失った父親の賢二さん(74)の思いも伝えた。フリーの記者では異例ともいえる警視庁捜査1課長(取材当時)のインタビューも強い熱意で実現させた。
 水谷さんは「ゼミは、現場主義の精神で世の中を変えようという強い思いを持った先生の下、同じ志の学生が集まっていた」と話す。小林さんと東南アジアの現地調査に出掛けた世田谷区の会社員鈴木卓さん(47)は「順ちゃんは、英語が流ちょうで物おじしないリーダーシップのある女性。ジャーナリストや国際機関の職員として社会を変えていたはずだ」と死を悼む。
 9日は命日。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で現場での献花式が中止になった。だが、賢二さんと地元有志でつくる「亀有防犯指導員ネットワーク(ナイスかめあり)」は十分な感染対策を取った上で、柴又駅前(葛飾区)での情報提供の呼び掛けは例年通り実施する。

◆「被害者の思いを伝え、解決の力になり続けたい」

 水谷さんは「未解決事件で一番心配なのは事件そのものの風化。解決に向けたご遺族や地元の方々の強い思いを感じる」と話す。
 水谷さんは主に東南アジアと東京・山谷を拠点に貧困問題を取材してきたが、特集記事を機に思いを新たにした。「事件被害者の思いを伝え続けることをライフワークの一つとし、少しでも解決に向けた力になり続けたい」。かつて小林さんと同じ時期に通った母校の校舎を見つめながら、こう語った。

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