《東京近郊 気まぐれ電鉄》多摩の終着駅・唐木田から町田の秘境へ

2020年9月16日 12時03分

<今回利用したルート>
《小田急小田原線・多摩線》  新宿―唐木田

終着駅という旅情のある場所


 小田急多摩線の終点は唐木田(からきだ)という。多摩ニュータウンへ行く通勤線の駅とはいえ、その名はローカル鉄道の終着駅のような、ちょっと旅情を誘うものがある。今回はそんな唐木田をローカル鉄道の旅気分で訪ねて、町田の奥の方を歩いてみたいと思う。
 新宿駅の4番ホームから、9時13分発の唐木田まで直通する急行に乗った。生田のあたりから車窓に丘の緑が目につくようになって、郊外電車の気分が高まってくる。新百合ヶ丘の先で本線(小田原線)と分かれて、五月台、栗平…丘陵の新興住宅の街を進む。もはや“古いニュータウン”という景色にもなった多摩ニュータウンの中心地・小田急多摩センタ―の次が終点の唐木田。平日の午前中、周囲を見渡したところ、ここで降りたのは僕らグループだけだった。
 ローカル鉄道気分の旅としては、駅前にひなびた食堂や雑貨店みたいなのがポツンと建っていたりして欲しいものだが、もちろんそういう古物件はなく、ケーヨーデイツー(D2)というホームセンターがドカンと建っている。ここからはよく見えないが、ホームセンターの裏方あたりに小田急線の車両基地が置かれているようだ。
 南方に進んでいくと、清掃工場の脇で道は緑の山に突きあたる。その一角に見つけた緑道の入り口から山の中へ入っていった。自然の雰囲気を残しながら、急なところは滑りどめの木を入れた階段式に整備されているので、歩きやすい。周囲はコナラやシラカシが目につく多摩らしい雑木林、僕は夏の取材の定番道具、ともいえる捕虫網をセットした。
 ちょっと木立ちが開けた草地で、都心でもよく見るツマグロヒョウモン(チョウ)を小手試しにネットに収め、その先のコナラの樹液にたかるクロカナブンをゲットした。ただのカナブンは家の近所の杉並あたりでも珍しくないが、このコールタールのように黒光りしたカナブンはそう簡単にお目に掛かれない。

久しぶりに見つけた面白カンバン。ゴルフのカートにご注意を。

 クロカナブンを採った(といっても、写真に撮ってすぐ放してしまったが)コナラの木立ちの向こうには、ゴルフ場のグリーンが広がっている。<注意 ゴルフカート・プレイヤーの横断あり>なんていう黄色い標識も立っていたが、隣接するこの東京国際ゴルフ倶楽部というのは、調べてみると1961年の開場らしいから、一帯が広大な山林だった頃から存在した名門なのだ。

東京の郊外に残された歴史を感じさせる場所


 道はやがてゴルフ場から離れて、山間の切り通しの古道風になってきたが、この道は俗に“よこやまの道”とも呼ばれる鎌倉街道の裏筋らしい。“よこやま”とは、山の横の道の意で「万葉集」によまれたという説もあるけれど、町田一帯を収めた武将・小山田氏は八王子の武士団横山党と関係が深かったというから、それが由来かもしれない。

トンボ池でゲットした立派なサイズのギンヤンマのオス。

 小山田氏の居城跡地とされる大泉寺という寺にこれから向かうわけだが、途中、トンボ池というのに立ち寄った。保存された湿地の池に名のとおりトンボがうじゃうじゃいる。しかし、大方は都心の公園でも見かけるシオカラトンボで、少々がっかりしていると、大物のギンヤンマがやってきた。しかも、オスとメスがつながった、いわゆる“おつながり”だ。
 単独のギンヤンマと比べて敏しょう性が薄れていることもあって、バサッと網をすくいあげるようにして一発で捕獲に成功した。ギンヤンマのオスとメスの見分け方は、胴の中心部が黄緑と空色のコンビネーションになったオスに対して、メスの方は黄緑が大勢を占め、はねがサングラスのように若干茶色っぽい。手に取ってよく観察してから放すと、オスは元気よく飛び去っていったが、メスはじっとして動こうとしない。産卵の途中で衰弱していたのか、あるいは僕の突然の捕獲に精神的ショックを受けたのか…通路の傍らにそっと置いてきたが、回復しただろうか…。しばらくこのギンヤンマのことが頭に残った。
 トンボ池の奥に見えるこんもりした森林が大泉寺の裏山にあたるのだろうが、寺へ入って行くには、ぐるり迂回しなくてはならない。バスが往来する通りに出たところに、「山の端」といういかにも田舎めいた停留所があり、その次が大泉寺。少し手前の旧道が枝分かれする入り口に昔のダルマ型の郵便ポストと古い精米機を置いた米屋がある。山の端のバス停の横は田んぼだったが、そうかこの店なんかは近所で収穫された米を精米していたのかもしれない。50年前くらいの町田がここだけ保存されているような景色だ。

歴史のある大泉寺にも近代化の波が。機械じかけで鐘が自動的に鳴るようになっていました。

 大泉寺は1200年代初めに創建された曹洞宗の寺院というが、ここは鎌倉幕府の時代から町田一帯を治めていた小山田氏(有重ありしげ)の居城が戦国時代の1470年代頃まで武田信玄方の砦として機能していた…というから、長らく敷地内に城と寺が共存していたのだろう。裏山に城の時代の遺構が多少残っているというが、今回そちらには行かない。本堂前に並べられた7人編成の五百羅漢が、どことなくスカパラっぽい佇まいだった。

現在も営業を続けている町田の老舗書店、久美堂の広告も掲載されていました。

 さて、次に行く市営の考古資料室までは地図上1キロ余りの距離なのだが、この日はかなりの暑さでもうヘトヘトなので、途中までバスを使うことにする。神奈中バスが来る大泉寺の停留所、これから僕らが乗る町田バスセンター行きとは逆方向の側にシブいバス待ち小屋がある。年季の入った木の小屋の内側にびっしりとブリキの広告看板が貼られているのだが、これがすべて古めかしい。<櫻屋のパン>という店の電話番号は<渕の辺 六二番>なんて2ケタ表示、また<本と文房具 久美堂>の住所表示には<小田急線新原町田駅前>と旧駅名がそのまま。一角に<昭和38年改修>という表記を見つけたが、このとき(僕が小学校に上がった春)貼られた看板として、もう60年近い。実はこの小屋、10年くらい前のバス旅で発見して、今回は「まだ残っているか?」確かめるのが1つの目的でもあった。先のポストや米屋とともに、できればずっと保存して欲しい町田・下小山田の昭和遺産といえる。
 バスに乗るとたった1つ目の「桜橋」で降りて、道向こうの見過ごすような小道を進んでいく。小川際の田んぼの向こうに小さな神社(小山田神社)が見えるこの道は、やがて広い一直線の新道になって、住宅地の中の上り坂をしばらくひいひい言いながら進んでいくと、ようやく右手に「町田市考古資料室」の表札が見えた。

町田には縄文時代から人が集っていた


 三角屋根をのせた、一見小さな教会のようなコンパクトな建物だが、館内の展示はなかなかおもしろい。市内で発掘された縄文時代の土器や石器の展示が中心なのだが、まず目にとまるのはマンガチックな顔をした土偶の諸々。ウルトラマンに似たようなのもあれば、どこかで見掛けたオッサンみたいなのもある。なかで「中空土偶 頭部」と記された、頭に角みたいな突起が見られる丸顔の土偶は、『まっくう』なるニックネームが付けられて、マスコット人形の試作品が飾られていた。

町田で発掘された中空土偶は頭部のみ。北海道では全身像が見付かっており国宝に認定されているとか。

 「町田の中空土偶って意味なんですよ。人気が出ればキャラクターグッズなんかも売り出したいんですけどね」
 と、気さくな学芸員の男が説明する。展示品には、小山、忠生、木曽、金森、などと市内の発掘地の地名が表記されているが、多くは1960年代から80年代くらいにかけての大規模な団地の造成中に出土されたものらしい。つまり、町田の市街化の歴史と密接に結びついているのだ。
 考古資料室で縄文文化にふれた後、先の桜橋からまたバスに乗って、2つ3つ先の図師大橋へ。芝溝街道が通るこのあたりにはメシ屋がいくつかあるが、2、3年前にやってきたとき、埼玉のローカルフードで知られる「山田うどん」が出店していることを知った。
 ランチは「山田うどん」で、うどんに勝る看板メニューになりつつある“パンチ定食”をいただく。どういう経緯で“パンチ”と付けたのか定かではないが、煮込みのモツをレバニラ風に炒めたような料理である。ところで、「山田うどん」というと、玄関先でグルグル回転するカカシマークの看板塔がシンボルといえる。が、カカシの看板はあるにはあるけれど、前よりちょっと小さくなって、回転していない。ブナンに、控え目に…みたく、社の方針が変わったのか? ふと気になった。

右下の四角いお皿に盛りつけられているのが「パンチ」。お土産用のパックも販売されている人気の品。

 
帰路も神奈中バスのお世話になって、町田バスセンター(駅前)へ向かう。途中、忠生や木曽…資料室の縄文土器に記された団地の街を通り過ぎた。

PROFILE

◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。




◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/

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