<中村雅之 和菓子の芸心>「白太夫」(大阪市・文楽せんべい本舗) 大阪人の深い文楽愛

2020年9月11日 07時49分

イラスト・中村鎭

 これほどまでか、と思えるほど大阪人の深い文楽愛を感じさせてくれるのが、「文楽せんべい本舗」の和菓子の数々だ。
 昭和20年頃、文楽人形の絵柄が入った玉子せんべいが売り出され評判となった。それを「文楽せんべい」と名付けたのが、明治・大正・昭和と3代にわたって活躍し、近代随一の太夫と謳(うた)われ、文楽の世界で初めて文化功労者にも選ばれた豊竹山城少掾(とよたけやましろのしょうじょう)だ。
 2代店主はこれに感激し、「世界に誇る人形浄瑠璃『文楽』を、商標に戴(いただ)く幸せと責任を心得て、菓子づくりに精進します」と誓った。
 この誓いの通り、看板の「文楽せんべい」に続いて、その後も文楽にちなむ和菓子を次々と生み出していった。
 「白太夫(しらたゆう)」は、白餡(しろあん)をしっとりとした皮で包んだ素朴な味わいの饅頭(まんじゅう)。菅原道真(すがわらのみちざね)をモデルにした菅丞相(かんしょうじょう)をめぐる作品「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」で活躍する三つ子、「梅王丸」「松王丸」「桜丸」の父の名。菅丞相の所領・佐太村の百姓で、忠義を尽くす律儀(りちぎ)で気骨のある老人。古希の祝いを機に四郎九郎から改名した。
 「弥陀六」は、白餡に栗の粒が入った饅頭。「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」に登場する石屋の名だが、実は幼い時の源義経を捕(とら)えながらも、助命を願い出て助けた慈悲深い平家の武将・平宗清の仮の姿だ。
 「団七」は、粒餡を挟んだ和風ブッセ。「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」に登場する侠客(きょうかく)の名だ。
 そのほか、「二人禿(かむろ)」にちなむ、餡を柔らかいせんべいで包んだ「花かむろ」、皮に文楽の太棹(ふとざお)三味線のバチが型押しされた最中(もなか)「弦(いと)」もある。 (横浜能楽堂芸術監督)
<文楽せんべい本舗> 大阪市生野区新今里1の17の5。(電)06・6752・6356。和菓子三種(白太夫、弥陀六、団七が3個ずつ)詰め合わせ1380円。 

近代随一の太夫と謳われた豊竹山城少掾

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